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大気中浮遊粒子の構成元素を高感度で測る
―粒径別捕集法による迅速定量分析法の開発―




図9-1 インパクター方式エアーサンプラーによる粒子捕集

慣性衝突により粒子を粒径別に捕集板上に捕集します。捕集される粒子の粒径は、> 2.0 μm(上段)、0.3 〜 2.0 μm(中段)、0.05 〜 0.3μm(下段)です。ここでは、捕集板として分析用の試料台(シリコン製)を用いました。



図9-2 全反射蛍光X 線分析(TXRF)法の概念図

X 線を試料に照射すると、試料に含まれる各元素はそれぞれ固有のエネルギーの蛍光X 線を放出します。そのエネルギーから元素の同定ができ、その強度から元素の量が求まります。ここで、X 線入射角を全反射臨界角以下にすることにより、X 線の散乱や試料台からの信号を小さくすることができ、感度の高い分析が可能となります。



図9-3 粒径別の大気中浮遊粒子のTXRF スペクトル

一定量の内標準物質(Se)を試料に加えることにより、ピーク強度の比から各元素の量を計算できます。また、粒径別に大気中浮遊粒子を分析することにより、各元素量の粒径依存性がわかります。




 大気中を浮遊している粒子は、様々な元素で構成されています。その中には人体に有害な重金属も含まれているため、粒子による大気汚染や人の健康への影響が懸念されています。特に、微小な粒子は呼吸などにより体内に容易に取り込まれるため影響が大きいと言われています。粒子を構成する元素の種類と量は時々刻々と変化し、また元素によっては極微量であるため、その分析に際しては、短時間での粒子捕集及び感度の高い分析方法が必要となります。
 私たちは、大気中浮遊粒子に含まれる元素を迅速かつ高感度で分析できるように、インパクター方式のエアーサンプラーによる粒子捕集と、全反射蛍光X線分析(TXRF)法を組み合わせた方法を開発しました。
 粒子の捕集方法を図9-1に示します。捕集部は3段に分かれており、それぞれ異なった粒径の粒子を慣性衝突により捕集板上に捕集します。この捕集板としてTXRF用の試料台を用いることによりTXRF法のための前処理を格段に簡素化することができました。TXRF法  (図9-2)では、粒子捕集に用いる直径25 mmの試料台を使用できるように装置の一部を改良するとともに、試料台材質が感度に及ぼす影響を詳細に調べ、高感度で粒子中の元素を分析できるようにしました。図9-3に粒子径別に大気中浮遊粒子をシリコン試料台上に48時間捕集し、TXRF法により元素分析を行った結果を示します。ここでは、定量化のために内標準物質としてSeを用いました。その結果、大気中浮遊粒子に含まれる多くの元素をピコグラム(10-12 g)レベルの感度で分析することができました。また、Pb及びZnなどの人為起源の元素は、比較的小さな粒子に多く集まっており、一方、土壌成分であるCa、Ti、Feなどの元素は、比較的大きな粒子に多く集まっていることが明らかになりました。現在、原子力施設から放出される極微量放射性物質の分析への応用なども試みています。



参考文献
F. Esaka et al., The Use of Si Carriers for Aerosol Particle Collection and Subsequent Elemental Analysis by Total Reflection X-ray Fluorescence Spectrometry, Spectrochim. Acta B, 58(12), 2145 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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