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高温超伝導体が示す精密な磁気振動の謎を解明
―新しい高精度デバイスへの可能性―




図10-1 磁場中の高温超伝導体

高温超伝導体の結晶構造は、超伝導を担う銅酸素面(青色の層)と絶縁層からなるサンドイッチ構造をしています。この高温超伝導体に矢印のように層に平行に磁場を印加すると、ジョセフソン磁束量子が絶縁層に入り三角格子を形成します。



図10-2 発生電圧の磁場依存性

電流値を変え、発生電圧の磁場変化を数値シミュレーションした結果です。周期的変動が見られ実験結果と一致します。



図10-3 磁場の増加と磁束のダイナミクス

磁場が増加するとジョセフソン磁束量子の密度も増加します。ジョセフソン磁束は、c 軸方向の電流により緑矢印の方向へ動きます。しかし、結晶端では図上部の模式図・青線のように表面バリアがあるため、運動が阻害されます。一方、磁束量子間には斥力が働き、間隔を一定に保とうとします。この結果、磁束は三角格子を組んで運動するため、磁束が同時に出入りをする場合(一番上と下の図)、格子全体の運動が抑制されます。この結果、電磁誘導の法則により発生電圧が低くなるのです。この状態は、図10-2 のように磁場の増大と共に周期的に現れます。




 高温超伝導体は、その発見以来多くの研究が行われ様々な特徴的性質が明らかにされてきました。中でも、図10-1に示したように、一つの結晶軸(c軸)方向に超伝導を担う銅酸素面と絶縁層が交互に堆積する結晶構造は、隣接する銅酸素面間をジョセフソン結合と呼ばれる弱い結合で結びつけ、積層型ジョセフソン接合の性質を与えます。これまで、ジョセフソン接合の超高速な電磁応答特性は半導体に替わる素子として期待されてきましたが、高温超伝導体は結晶自体が自然に素子としての役割を果たすため、工学的には極めて有利です(均質な接合が大量に生産できます)。最近、この高温超伝導体の電気抵抗(電圧)が磁場中で磁場の増加に伴い振動し、その振動周期が磁場に対し非常に精密であることが物質・材料研究機構の研究グループの実験により示されました。私たちは、この結果が微小磁場検出等に極めて有利で、材料欠陥(微小磁場を作る)等の検査に利用できる可能性が高いと考え、シミュレーションにより、そのメカニズムの解明を進めました。その結果、絶縁層に侵入したジョセフソン磁束量子が一定電流の下、結晶両端で同時に出入りを行う際に電圧が減少することを見出し、図10-2のように実験を再現することに成功しました。
 この原因としては、図10-3に示したように、ジョセフソン磁束量子が、結晶両端で表面バリアを感じると同時に、互いに反発しあい三角格子を組んで運動するため、ちょうど出入りが同時に起る時、格子全体でより強いバリアを感じ、運動速度が弱まったからです。さらに、格子間隔は磁場に比例するため、磁場と結晶両端距離が一定の関係にある時だけ、同時にジョセフソン磁束量子が出入りすることが理解できます。
 現在は、この周期がどのような温度及び磁場範囲まで成り立つかを調べていると同時に、デバイス化の方向性を模索しています。



参考文献
M. Machida, Dynamical Matching of Josephson Vortex Lattice with Sample Edge in Layered High-Tc Superconductors: Origin of the Periodic Oscillation Flux Flow Resistance, Phys. Rev. Lett., 90, 037001(2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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