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有機抽出剤による放射性元素分離性能を予測する




図10-4 ウラン-TMDGA の解離状態とユーロピウム-TMDGA の安定した結合状態を表すシミュレーション結果

ウランとTMDGA はメタノール中で離れていく傾向があるが、ユーロピウムでは安定に結合した状態が保たれます。




 原子炉の燃料を使い終わると、それを溶かして再利用できるウランやプルトニウムを選択的に分離します。その過程で長期間にわたって強い放射線を放出する放射性元素が大量に発生します。これらの放射性元素を分離して回収することは、放射性廃棄物を処理・処分し、環境への負荷を低減する上で、重要な技術課題です。
 放射性元素の分離には、酸性の硝酸水溶液から有機抽出剤を使って分離することが一般的です。この分離過程を有機抽出剤の電子状態計算と、スーパーコンピュータを使った分子動力学シミュレーションを用いて解析する研究を行っています。この研究では、まず初めに有機抽出剤(ジアミド系抽出剤の一つであるTMDGA分子)の電子密度分布を計算します。この電子密度を入力パラメータとして、ランタノイド元素の一つであるユーロピウムやウランと、この有機抽出剤との構造最適化を行います。そして、得られた初期構造が水分子中やメタノール分子中でどれだけ安定に存在するかをシミュレーションしました。その結果、ウラン-有機抽出剤は水分子中でもメタノール分子中でも、不安定である(図10-4の左側)ことが分かりました。しかし、ユーロピウム-有機抽出剤は水分子中では不安定であるのに対して、メタノール分子中では安定に存在することが分かりました(図10-4の右側)。このことは、ウランとユーロピウムイオンの分離挙動の特徴をうまくシミュレーションして、選択的な分離性能を再現することができたことを示します。コンピュータシミュレーションは、今後の放射性物質を取り扱う実験研究を評価する上で重要な手段となります。



参考文献
M. Hirata et al., Molecular Dynamics Simulations for the Complexation of Ln3+ and UO22+ Ions with Tridentate Ligand Diglycolamide (DGA), Phys. Chem. Chem. Phys., 5, 691 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2003
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