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高温ガス炉の熱を水素エネルギーに
―長時間連続運転のカギ〜反応制御に成功―






図1-6 ISプロセスの概要

ISプロセスは三つの化学反応を組み合わせて水を分解します。酸の生成反応では、水(H2O)、二酸化硫黄(SO2)及びヨウ素(I2)から、硫酸(H2SO4)とヨウ化水素(HI)酸を生成します。ヨウ化水素分解反応では、ヨウ化水素を熱により分解し、水素(H2)とヨウ素を生成します。硫酸分解反応では、硫酸を熱により分解し、酸素と二酸化硫黄を生成します。



図1-7 水素製造装置

水素製造装置は、ISプロセスを具現化したものです。主な装置材料はガラス及びフッ素樹脂、熱供給は電気ヒーターで行い、大気圧下で運転します。



図1-8 水素と酸素の累積発生量

水素の発生速度は、ほぼ一定速度の毎時32NLで、酸素は水素の半分で発生しています。水を構成する水素と酸素の比は2対1ですので、この結果は、安定に水分解が行われたことを示しています。




 原研は、原子力エネルギーを用いることにより環境保全性・経済性の高い大量の水素製造技術の確立を目指しています。水素製造方法として、水を原 料とし、高温ガス炉の熱を用いて水素を製造できる熱化学法ISプロセスが注目を集めています。ISプロセスは、本方法で用いる物質のヨウ素(I)と硫黄 (S)から名付けられました。
 ISプロセスを実用化するためには、安定的かつ連続的に長時間プロセスを運転することが必要です。本プロセスでは、原料、製品以外に閉じた状態にて三つ の化学反応を同時進行で生じさせますので(図1-6)、安定な運転を行うためには、これらの反応を協調動作させることが不可欠となります。私たちは、この 協調を実現するには、酸の生成反応を制御して溶液組成を一定に維持することが重要であることを見出しました。そこで、この反応制御を行って、安定な水素製 造ができるかどうか水素製造装置(図1-7)を用いた試験を行いました。
 酸の生成反応において生じた溶液は、酸の分離にて硫酸に富む溶液(硫酸相)とヨウ化水素に富む溶液(ヨウ化水素相)の二つの溶液に分けられます。これら の溶液を試験中に定期的にサンプリングして組成(溶液に含まれる物質の割合)を調べたところ、ほぼ一定でした。この結果は、酸の生成における反応制御が有 効に機能したことを示しています。そして、予想通り、図1-8に示すように、20時間にわたり安定な水素製造を行うことができました。
 なお、本研究内容は文部科学省から原研が受託して実施している電源特会「核熱利用システム技術開発」の「水素製造システムの技術開発」により得られた成果の一部です。



参考文献
S. Kubo et al., A Demonstration Study on a Closed-Cycle Hydrogen Production by the Thermochemical Water-Splitting Iodine-Sulfur Process, Nucl. Eng. Des., 233(1-3), 347 (2004).
(https://doi.org/10.1016/j.nucengdes.2004.08.025)

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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