2-5

不安定性の発生周期をプラズマの流れで制御




図2-9 中性粒子ビーム入射によるELM発生周期の制御

(a)JT−60の中性粒子ビーム入射装置の配置図。多彩な入射方向を持つビームを組み合わせることでプラズマの流れに対する影響を調べることができます。
(b)ビームの組み合わせを変えた時のELMによるプラズマから排出される粒子束の違い。
(c)規格化ELM周波数のELM発生領域でのプラズマ流速との関係。ELM周波数は加熱パワーに比例するので規格化しています。




 ITERや将来の核融合炉においては、高い閉じ込め性能のプラズマを、不純物や核融合反応により生成されるヘリウムの蓄積を最小限に抑制しつつ定常的に維持する必要があります。プラズマ表面近傍に局在化する不安定性(ELMと呼びます)を伴うELM付き運転モードは、プラズマ周辺部からの熱や粒子の周期的な排出を伴い、不純物やヘリウムの排出を促進しながら高い閉じ込め性能が得られるため、ITERの標準運転モードに採用されています。しかしこのELMが大きくなりすぎると、排出される間欠的な熱粒子束がダイバータ板を損耗させてしまい、その寿命を制限してしまうことが懸念されていました。このため高い閉じ込め性能を維持しつつ、ELMによる熱粒子束の大きさや発生周期を制御する手法の開発が待たれていました。今回JT-60では、図2-9(a)に示すように世界でも本装置のみが有する多彩な入射方向の中性粒子ビームの組み合わせを用いて、プラズマの流れがELMの大きさや発生周期などに与える影響について調べました。加熱パワーを一定にした状態で中性粒子ビームの組み合わせを、同方向入射、バランス入射、逆方向入射とした場合のプラズマから排出される粒子束の時間変化を比較すると(図2-9(b))、ELMによる間欠的な粒子束の大きさや周波数が大きく異なることが分かりました。そこでELMの発生周期は加熱パワーとともに増大するため、ELM周波数を加熱パワーで規格化した量のELM発生領域でのプラズマ流速に対する依存性を調べました。その結果、プラズマ電流と逆向きのプラズマの流れを増大させるとELM発生周期が顕著に減少することが分かりました(図2-9(c))。またELMによる粒子束の大きさもプラズマ電流と逆向きのプラズマの流れの増大に伴い顕著に減少し、終にはELMが消滅することが分かりました。これらの結果は、ELM発生領域のプラズマの流れを制御することにより、ELMの発生周期やそれによる粒子束の大きさを制御できることを初めて明らかにした成果です。この成果を応用することによって、ITERや核融合炉でのダイバータ板へのELMによる熱粒子束を制御するための原理が実証されたと考えられます。



参考文献
Y. Sakamoto et al., Impact of Toroidal Rotation on ELM Behaviour in the H-Mode on JT-60U, Plasma Phys. Control. Fusion, 46(5A), A299 (2004).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。

たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
Copyright(c) 日本原子力研究所