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高温高圧で拡散接合したフェライト鋼の中性子照射に対する強さを調べる
―核融合炉ブランケット第一壁候補材の接合に及ぼす照射効果の研究―




図2-15 テストブランケット第一壁構造模擬体

低放射化フェライト鋼F82H(第一壁候補材)を用いてHIP接合法により試作しました。第一壁の構成は、ITERテストブランケットの設計例を反映しています。



図2-16 模擬体より切り出した機械特性評価用の試験片

試験片の大きさは500円玉より小さいものです。このような微小試験片技術の適用により、第一壁HIP接合部の特性評価が可能となりました。



図2-17 非照射でのHIP接合部の引張り特性

HIP接合部で破断した場合と母材部とを比較した図です。両者の特性は同等であり、接合力は母材並であることが分かります。



図2-18 中性子照射後におけるHIP接合部の強度

強度の弾き出し損傷量依存性を示した図です。HIP接合部の強度は素材(板材)の強度変化の内挿範囲内と見なせ、照射後もほとんど劣化しないことが分かります。




 核融合炉内に取り付けられるブランケットは、プラズマ内の核融合反応で生ずる高エネルギー中性子に長時間曝されるため、その第一壁候補材には、放射化しにくく、かつ放射線のダメージに強いフェライト鋼(F82H鋼)が選ばれています。また、第一壁は高い熱負荷などにも曝されるため冷却管内蔵壁となっていますが,このような複雑な構造体を溶接などにより製作することは大変に困難です。そのため、その製作には高温高圧で構造材を強固に一体成形させる高温等方加圧(HIP)接合法が適用されます。これまでに、核融合条件下でF82H鋼が受ける照射効果を模擬したさまざまな実験が行われた結果、母材の照射後材料特性の全容が明らかになりつつある一方で、HIP接合部についてもその解明が急務となっています。
 本研究では、ITERに取り付けられるテストブランケットの構造体部分の模擬体(図2-15)をHIP接合法(1313K, 150 MPaで2 h)で試作し、模擬体の接合部より切り出した試験片(図2-16)に対し、照射前の冶金的・機械的特性を最初に調べました。その結果、母相の結晶粒界に一般的に見られる炭化物系析出物などと同等の析出物が接合境界に認められること、強さや伸びはともに母材部と同等であること(図2-17)、冷却管コ−ナ−部と板の接合部で発生した脆性破壊の問題は結晶粒の細粒化を狙った再熱処理により解決できることなどを明らかにしました。引き続き行ったJMTRを用いた中性子照射実験では、母材での知見に基づくと照射による脆化が著しい温度とされる523Kにて、約2 dpa(テストブランケットの全利用期間における累積量の約7割)の損傷を加えた後の引張り特性を調べました。その結果、接合境界での破断は生じず、接合部の特性は照射により大きく変わらないことが明らかとなりました(図2-18)。



参考文献
K. Furuya et al., Tensile and Impact Properties of F82H Steel Applied to HIP-Bond Fusion Blanket Structures, Fusion. Eng. Des., 69, 385 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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