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高温超伝導が繋ぐ極低温と室温
―ITER用6万アンペア電流リードを高性能化―




図2-19 トカマク型核融合炉(ITER等)の超伝導コイルと電流リード

核融合炉用超伝導コイルシステムにおける電流リードの役割として、室温の電源と4.5Kの超伝導コイルを電気的に接続するとともに、熱侵入を低減する必要があります。



図2-20 開発した高温超伝導電流リードと従来の電流リードとの比較

高温超伝導電流リードは従来方式と比較して、熱侵入量を1/3に低減しました。




 ITERなどの磁場閉じ込め型の核融合炉では、高温のプラズマを閉じ込める磁場を作るため超伝導コイルが使用されます。この超伝導コイルは極低温(−269℃)で運転されますが、電源が位置する室温部分との間に約300℃の温度差があります。この温度差を跨いでコイルに電流を供給する機器である電流リードは、大きな温度差による熱の侵入を防ぐと同時に、コイルが必要とする大電流(ITERの場合、6万アンペア)を安定に流す必要があります(図2-19)。従来は銅線を用いた電流リードが用いられ、ITERでもこれを使用する予定となっています。しかしながら銅は熱を伝えやすい性質を持つため、侵入する熱を除去するために大きな冷凍電力が必要となる欠点がありました。原研では、銅に代わる電流リードの材料として、電気はよく伝えるが熱は伝えにくく、また金属系超伝導体よりも約100度高い温度でも超伝導特性を示すセラミックス系高温超伝導体に着目し、これを電流リードに利用する研究開発を進めてきました。1998年には、高温超伝導電流リードを試作、1万4千アンペアを安定に通電し、本アイデアの原理実証に成功しました。
 ITERで使用するためには、電流値を4倍にする必要がありました。この開発では、電流リード内の高温超伝導体部(低温側)と銅部(高温側)間の接続部電気抵抗を低減することが課題となりました。なぜならば、電気抵抗が同じで電流値が4倍になれば、接続部での発熱は16倍になってしまうからです。たゆまざる探究の結果、接続部の電気抵抗は、銅部を構成する約千本の銅線を溶接している部分の電気抵抗が支配的で、溶接により不純物が混入し電気抵抗を高くしていたことを見いだしました。そこで、銅線を何束かに分割し、束の数と配置を工夫して溶接した結果、14ナノオーム(ナノ=10億分の1)という非常に小さな接続部電気抵抗を達成し、課題を解決することができました。
 開発した高温超伝導電流リードは、ITER超伝導コイルに必要な6万アンペアの電流を安定に流すことができ、かつ銅線を用いた従来方式と比較して、冷凍のための消費電力を1/3に減らすことができました(図2-20)。これにより、本方式の電流リードがITERに適用できることを示すとともに、高温超伝導を用いた実用機器としては数少ない成功を収めることができました。



参考文献
礒野高明 他、核融合炉用60 kA高温超伝導電流リードの開発と試験結果、低温工学、39(3)、122 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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