廃棄物ドラム缶中の核分裂性物質(核物質)を非破壊で測定する方法として、アクティブ中性子法と呼ばれる測定法があります。しかし、この方法では、図3-3の(1)に示すように、廃棄物ドラム缶中のどこに核物質が存在するかによって、廃棄物マトリックスの影響を受け、大きく検出感度が異なってしまいます。これでは核物質がどこに存在するか分からないと、正しい存在量を決めることはできません。また、たとえ存在位置が分かったとしても、中心部の検出感度が悪過ぎて高感度で測定することは絶望的です。実際、諸外国の研究機関ではこの問題を解決することができず、実用化に向けた開発をあきらめてしまいました。
しかし、私たちはさまざまな廃棄物マトリックスにおける位置感度変化に係る実験データの詳細な解析を行うとともに、モンテカルロ3次元輸送計算による理論解析を進めました。その結果、図3-4の(1)及び(2)に示す2通りの反応過程が存在することを見出しました。それらの反応過程で生ずる計数成分は、図3-5のAに示す測定データ中の(1)及び(2)のように2成分の指数関数の和として現れます。(1)の計数成分は核物質の存在位置によってその計数値が大きく変化してしまいますが、(2)の計数成分は存在位置が変わってもほとんど同じ応答性を示すことに気づきました。つまり、(1)に隠れている(2)の計数成分を抽出し評価すれば図3-3の(2)に示すように、核物質が廃棄物中のどこに存在しようともその量を精度良く決定できることになります。そして、中心部の感度を飛躍的に改善できる検出法なので、高感度測定が実現できることになります。
このような観点から、検出体系の最適化設計を進め図3-5のBに示すように、関心計数領域である(2)のみを検出できる手法を完成させました。14 MeV中性子直接問いかけ法と名付けた本検出法では、10分間の測定でコンクリート系ウラン廃棄物の検出下限値0.017 Bq/gを達成できることから、ウラン廃棄物のクリアランス測定やTRU廃棄物の放射能濃度区分測定が可能となり、廃棄物処分に係る大幅な経費削減が期待できます。さらに位置感度差が無いことから放射能存在量を高精度で決定できるので、正しい存在量が分かり、廃棄物処分安全性の確保に役立ちます。現在、実用化に向けた研究を進めています。 |