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HIP接合による中性子ビームパルス整形材の開発に成功




図4-1 核計算による減速材から得られるエネルギー100 meV の中性子ビームパルス形状

Ag-In-Cd 合金の中性子吸収エネルギーは、約1 eV になります。中性子吸収エネルギーが高くなるにつれて中性子ビームパルスはシャープになります。



図4-2 粉末回折パターンのシミュレーション

核計算の結果を用いて行った粉末回折パターンのシミュレーションの例を示します。粉末回折データの解析ではブラック反射の積分強度抽出をリートベルト法を用いて行うためピーク分離が非常に重要になります。例えばd=0.04693 nm付近の弱い反射は、1 eVの中性子吸収エネルギーの場合ではピークとして十分に分離できることを示しています。



図4-3 HIP処理後のAg-In-Cd合金とAl合金の接合部写真及び引っ張り試験後の破断部写真

Ag-In-Cd 合金をAl(A5083)合金製容器に封入し、HIP 処理(条件:図中*)を行うことによりAl合金との接合に成功しました。接合部を含んだ引っ張り試験では、硬度の高い場所で破断が生じることが分かりました。X線回折測定からAlAg3の化合物層の生成によるものであることも同定しました。この層の厚さを保持時間でコントロールすることによりさらに強度を改善する結果が得られています。




 核破砕中性子源では、パルス状の陽子ビームをターゲットに入射し、発生した中性子を減速材で減速して中性子ビームを取り出します。デカップラーと呼ぶ熱中性子吸収材料は、減速材に流入するエネルギーの低い中性子を吸収し、時間減衰の早いパルス中性子ビームをつくるため、高分解能中性子ビーム実験に必要なビームパルス整形材として有効に作用します。中性子吸収材料として利用されているボロン(B)系の材料は、多量のヘリウム(He)生成のためMWクラスの強度の中性子源に適さず、新たな材料の開発が課題となっています。我々は、Heを生成しない共鳴吸収材を組み合わせた系に着目し材料開発を行いました。銀-インジウム-カドミウム(Ag-In-Cd)系の合金が候補で、核破砕中性子源では初めての試みです(図4-1、4-2)。熱除去、冷却水による浸食のため、減速材の構造部材であるアルミニウム(Al)合金と密着させる必要がありました。Al合金の融点が低く、Ag-In-Cd系合金と接合材を得ることが一般的に困難であり、接合に関する技術開発が大きな課題です。そこで、HIP(等方熱間圧縮)手法に着目し、加熱温度、圧力、表面処理条件をパラメータとして接合材を試作しました。また、設計で要求される接合強度を確認するため引っ張り試験を行いました。その結果、接合部を含んだ引っ張り試験では、硬度の高い場所で破断が生じることが分かりました。X線回折測定からAlAg3の化合物層の生成によるものであることを同定しました。化合物層の厚さを保持時間等でコントロールすることで強度が改善されることが分かり、最適な接合条件として、圧力100 MPa、温度803K、保持時間10分を見つけ出し、世界で初めてその接合に成功しました(図4-3)。



参考文献
M. Harada et al., Silver-Indium-Cadmium Decoupler and Liner, Proc. ICANS XVI, May 12-15, 2003, Zeughaus, Germany, 2, 677 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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