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アルミナセラミックス真空ダクトの開発
―壁抵抗の小さな非金属製真空ダクト―




図4-4 大強度陽子加速器施設3 GeV-RCS の概念図と今回開発したアルミナセラミックス真空ダクトの写真

このダクトは3 GeV-RCS の約60%を占める電磁石部分に使用されます。



図4-5 真空ダクト外表面に施された銅箔の断面SEM写真

セラミックス表面に、(1)14 μmのモリブデン-マンガン、(2)2 μmのニッケル、(3)19 μmのシアン化銅、そして、(4)1 mm の銅がきちんと層状に配列されています。




 大強度陽子加速器施設(J-PARC)3 GeV-RCSは、25 Hzで1 MWの陽子ビームを出力する周長350 mのシンクロトロン加速器(図4-4)です。陽子ビームは真空状態のダクト内を通過します。一般に加速器では真空ダクトの材料として、非磁性ステンレスやアルミニウムが使用されます。しかしながら、3 GeV-RCSのような大強度で速い繰り返しのシンクロトロンで金属製の真空ダクトを使用しますと、変動磁場が誘起する渦電流が原因で発熱や歪曲磁場が発生し、ビームを安定に加速できない可能性があります。そのため、真空ダクトに非金属材料を使用して、ビームの安定化を図ることが考えられます。しかし、非金属材料の真空ダクトは、ダクト壁の電気抵抗値が大きく、ビームが誘起する電荷がダクト壁に蓄積されやすい特性があります。また、二次電子放出係数が10以上と大きいため電子雲ができやすくなります。そのため、ダクト内を通過するビームが不安定になり、ビームロス量が増加し放射線量が増大することが考えられます。3 GeV-RCSで安定にビームを加速するためには、シミュレーション結果から1 m 当たりの壁抵抗を18 オーム以下、及び二次電子放出係数を1にする必要があります。真空ダクトの壁抵抗を小さくするためには、導電性の金属箔で真空ダクトを覆うことが考えられますが、金属ダクトで問題となった渦電流が発生することになります。
 そこで、金属の導電性とセラミックスの絶縁性の長所だけを利用した新しい真空ダクトを開発しました。ダクトの材料としては、機械強度が大きく加工が比較的容易で、さらに放出ガス量が小さな高純度アルミナセラミックスを使用しました。大口径・長尺ダクトのため、短尺ダクトをメタライズとロウ付けで接合することで製作性を向上させました。外表面にはダクトの壁抵抗を低減させるために銅箔(図4-5)をストライプ状に施し、さらにすべてのストライプの片端はコンデンサを介して接地し、ビームが誘起する低周波成分を除去する構造に工夫しました。ストライプ形状を考案することにより、銅箔での渦電流を低減させ、真空ダクトの1 m 当たりの壁抵抗を6オーム以下に抑えることに成功しました。この銅箔は、PR銅電鋳という航空宇宙の分野で使用される技術を応用したもので、セラミックスの接合強度に影響を与える熱処理を避けることが可能となり、より信頼性の高い真空ダクト製作法を確立できました。さらに、ダクト内面には、二次電子放出率を低減させるために、窒化チタン(TiN)の薄膜をコーティングしました。これにより、二次電子放出係数を目標の金属ダクトと同程度の1以下にすることができました。ダクトの両端にはチタン製のフランジを取り付け、ダクトの真空性能の向上のみならず、ダクト据付・交換時の作業性が格段に向上しました。
 以上の開発により、大強度陽子加速器に使用可能な壁抵抗が小さい非金属製の真空ダクトが実現しました。



参考文献
M. Kinsho et al., Development of Alumina Ceramics Vacuum Duct for the 3 GeV-RCS of the J-PARC Project, Vacuum, 73(2) ,187 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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