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気泡を含む水銀中の圧力波をシミュレーションする
―MW級パルス中性子源(液体水銀ターゲット)の開発―




図4-6 液体金属ターゲット内の圧力波生成

パルス状陽子ビームが入射すると、瞬時の核破砕発熱により圧縮場が生成し、そこから圧力波となって周囲に伝播します。



図4-7 水銀中での負圧の発生

圧力波が伝播する過程で、水銀中には数10 MPaの負圧が生じます。高い負圧場では気泡(キャビテーション)の発生が予想され、気泡中の波動伝播特性が問題になります。



図4-8 気泡動力学の適用

気泡を含む水銀の波動現象を解明するために、潜在する微小気泡をモデル化した気泡動力学を適用しました。気泡分散水銀は、気泡の圧力が高いために収縮のハードスプリング化により圧力波伝播特性の非線形性が強くなります。



拡大図(50KB)

図4-9 気泡分散水銀中の圧力波伝播特性

気泡分散水銀の非線形性は、水銀の表面張力が大きいために、気泡分散水の場合よりも非線形性が強くなり、初期圧力P0が50 MPa程度の圧力波に対して、気泡体積率(β)が10-9程度でも衝撃波(波頭の尖鋭化)が生じることが分かりました。




 J-PARCの物質・生命科学実験施設に用いる水銀ターゲットでは、1 MWのパルスビームが入射した時の核破砕反応による瞬時発熱により数10 MPaの圧力源が発生し、そこから圧力波となって周囲に伝播しターゲット容器と相互作用します(図4-6)。圧力波がターゲット容器内を伝播する過程において、ビーム窓近傍で数MPa〜数10 MPaの負圧が生じ、気泡(キャビテーション)が発生することが明らかになりました(図4-7)。気泡が発生すると、音速が大きく低下するとともに波動伝播に非線形性が現れます。その結果、ターゲット容器に与える圧力負荷も変化することになります。容器の設計を精度良く行うためには気泡分散水銀中の波動伝播挙動を解明する必要があり、液体中に存在する微小気泡の動的挙動を扱った気泡動力学の適用を検討しました。気泡動力学は、気泡同士が相互作用しない程度に存在できる密度であることを前提に、液体中の気泡の挙動を検討するとともに、気泡を含む液体(気泡分散液体)中の波動伝播現象を扱う学問分野です(図4-8)。気泡分散水中での波動伝播に関する研究例はありますが、水銀中での研究例はありませんでした。水銀は水に比べて密度と表面張力が一桁程度大きいために気泡の挙動が大きく異なり、気泡分散水銀中の波動伝播は気泡分散水の場合と比べて強い非線形性を示します。一例として、50 MPaのガウス状の初期圧力場が波動伝播する挙動を見るために、1次元非線形波動方程式を解いた結果を図4-9に示します。気泡の体積率βが10-9の微小量でも非線形性により衝撃波が生じることが分かります。因みに、気泡を含まない場合には数GPaのレベルにならないと衝撃波は発生しませんでした。これらの解析手法は、水銀中に気泡が発生した状態や、圧力波を緩和できる可能性として提案されている気泡注入法を採用した場合の設計評価に応用できます。



参考文献
S. Ishikura et al., Bubble Dynamics in the Thermal Shock Problem of the Liquid Metal Target, J. Nucl. Mater., 318, 113 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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