5-1

フルコヒーレントX線レーザーの発振に成功




図5-1 X線レーザーの高コヒーレント化の概念図

1つ目の媒質中で発生したX線レーザーの一部をシード光として2つ目の媒質で増幅することにより、空間コヒーレンスの高いX線レーザービームを発生することができます。



図5-2 X線レーザーのビームパターン

高コヒーレントX線レーザーの出力エネルギーの空間分布です。X線レーザーは、ほぼガウス型のビームパターンになっており、その発散角は0.2 mradで回折限界に近い値です。



図5-3 X線レーザーによる干渉パターン

ヤングの実験による干渉パターンです。ビーム径と同じ間隔のダブルスリットを用いても干渉縞のコントラストが良いことから、このX線レーザーはフルコヒーレントな状態になっているといえます。


 私たちは、世界で初めて空間的にフルコヒーレントなX線レーザー(波長14 nm)を発生することに成功しました。
 X線レーザーは、銀のターゲットに数ピコ秒程度のパルスレーザーを照射し、この時に発生するプラズマを媒質として発振させています。この方式では、比較的低い励起エネルギーで高い利得が得られるのが特徴ですが、ビーム発散角が 10 mrad 程度と大きく、空間コヒーレンスが良くないという問題がありました。この理由としては、次の2つが挙げられます。まず、X線レーザーは短い媒質長で増幅が飽和するため、長いレーザー媒質を使うことができず、幾何学的に決まる発散角が大きくなります。次に、媒質プラズマの密度勾配によりX線ビームが屈折して広がるということがあります。
 私たちは2つのX線レーザー媒質を用いることにより、この問題を解決することに成功しました。この方法では、1つ目の媒質中で発生したX線レーザーの一部をシード光として、2つ目の媒質中で増幅します(図5-1)。2つの媒質の間隔を最適な距離にすることにより、発散角の計算値は 0.2 mrad 程度になります。この大きさは、X線レーザーの回折現象によるビームの広がり角の理論的限界値(回折限界)と同程度です。また、2つ目の媒質を生成するタイミングを制御することにより、プラズマの密度勾配による屈折の影響を抑えられることが分かりました。これは、利得のピークが時間とともにプラズマの密度勾配の比較的緩やかな領域に移動するためと考えられます。これらにより、発散角が回折限界角と同程度であり(図5-2)、かつビーム全体が高い干渉性を持つ(図5-3)フルコヒーレントX線レーザーを得ることができました。



参考文献
M. Tanaka et al., X-Ray Laser Beam with Diffraction-Limited Divergence Generated with Two Gain Media, Opt. Lett., 28, 1680 (2003).

ご覧になりたいトピックは左側の目次よりお選びください。

たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
Copyright(c) 日本原子力研究所