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小型高強度レーザーを用いた新方式イオン源の実証実験に成功
―がん治療用の粒子加速器の小型化に大きな期待―




拡大図(50KB)

図5-4 陽子発生の原理図

レーザー光をタンタルターゲットに集光照射します。陽子はターゲットに吸蔵している水素が電離しプラズマ中で加速されることにより発生し、5枚の飛跡分析器でイオン発生の角度分布、イオンエネルギー分析器でエネルギー分布が測定されます。右端の図に、飛跡検出器上のエネルギーの分解された信号の一例を示します。



拡大図(50KB)

図5-5 レーザーを用いたイオン源の構成

レーザーを照射したテープターゲットで発生したイオン(陽子、炭素)は位相回転共振器によりエネルギー帯域が狭められ、後段の分析磁石で必要なエネルギーのイオンに分けられ、エミッタンス評価装置で性能評価が行われます。




 本研究は、(独)放射線医学総合研究所を中心とした全国にまたがる研究体制で、イオンビームによるがん治療の際に不可欠な加速器システムを先進的な研究により大幅に小型化するプロジェクトの一環としてイオン発生部、前段加速器の小型化を目指して実施しているものです。
 エネルギー1 MeV以上の陽子を効率良く発生するため、水素を含んだ金属薄膜に小型高強度レーザー装置からの超短パルスレーザー光(パルス幅50 fs)を集光して1平方センチメートル当たり3×1018 Wの強度で照射する実験を行いました(図5-4)。その際、発生した陽子の最大エネルギーは1 MeVで、かつ100 keV以上のエネルギーの陽子発生数はレーザー照射1回当たり109個でした。この成果は、主レーザーパルス(超短パルスレーザー光)に先行して低強度レーザーパルスをまずタンタル薄膜ターゲットに照射してプラズマを作り、このプラズマと超短パルスレーザー光とを相互作用させることで得られました。この現象は計算機シミュレーションで予測されていましたが、今回、実験により初めて実証されました。
 この実証によってシミュレーションの有効性も確認できました。この結果にもとづき、レーザー照射強度を今回の値の5〜10倍にしますと、加速器のイオン入射器として十分な性能の超小型イオン源(図5-5)となることが示されました。また、この成果を踏まえ、高エネルギー陽子に加え、炭素イオンの生成と炭素イオン加速器システムとしての研究開発も目指します。



参考文献
K. Matsukado et al., Energetic Protons from a Few-Micron Metallic Foil Evaporated by an Intense Laser Pulse, Phys. Rev. Lett., 91(21), 215001 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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