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自由電子レーザーで周波数変調パルスの発生
―化学反応の制御に繋がる技術を確立―




図5-9 原研の自由電子レーザーで得られたレーザー電場の時間波形とその包絡線

時間が進むにつれて周波数が小さくなっている(周期が長くなっている)のが分かります。



図5-10 周波数変調したレーザーパルスを用いた量子制御による化学反応の例

エネルギー準位に同調した変調を有するレーザーパルスを照射すると、分子は逐次的に励起され、解離に至ります。



図5-11 自由電子レーザー装置

東海研究所に設置されています。




 波長可変・高出力の特徴を持つ自由電子レーザーに自発的な周波数変調が現れることを発見しました。この原理を用いて、14.3%の周波数変調を持った319 fs(1 fs=1000兆分の1秒)の超短パルスレーザーの発生に成功しました(図5-9)。
 レーザーによる物質の分解、合成過程が、レーザー量子制御と呼ばれる手法を用いることで効率良く行えることが分かっています。例えば、図5-10に示したような複数の原子からなる分子をレーザーで分解する場合、非等間隔のエネルギー準位を逐次的に励起するために、それぞれのエネルギー準位差に同調した周波数のレーザーを短い時間(ps秒程度)で照射する必要があります。もし、レーザーパルスが周波数変調していれば、このような分子の逐次励起を、単一のパルスで効率良く行うことができるようになります。しかし、これまでの自由電子レーザーでは、量子制御を行うには不十分な周波数変調しか得られていませんでした。私たちは、自由電子レーザー共振器における電磁場と電子の相互作用を解析し、レーザー利得が大きく、かつ電子パルスが数ps秒以下の条件下において、量子制御に利用可能な10%を超える大きな周波数変調を持ったレーザーパルスが生じることを検証したのです。
 私たちは、超伝導線形加速器を用いた自由電子レーザー開発において、2000年に世界最高出力(2.34 kW)を達成し、2002年にはエネルギー回収装置(レーザーを発振させた後の電子ビームエネルギーを無損失で回収し、後続電子の加速に再利用する装置、図5-11)の開発に成功するなど技術開発を重ねています。今回の成果によって、自由電子レーザーによる有害物質の分解や有用物質の合成といった産業利用の展望が大きく開くことになります。



参考文献
R. Hajima et al., Generation of a Self-Chirped Few-Cycle Optical Pulse in a FEL Oscillator, Phys. Rev. Lett., 91(2), 024801 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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