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窒化ガリウム単結晶を高温高圧下で育成する




図5-12 SPring-8原研ビームライン設置の高温高圧発生装置

1 mm3 程度の試料空間に2500℃、13万気圧までの高温高圧を発生することができ、その条件下にある試料の様子を、放射光強力X線を用いて、リアルタイム観測することができます。



図5-13 放射光実験により決定された窒化ガリウムの高温高圧状態図

6万気圧を超える高圧力下では、窒化ガリウム液体として存在できることが分かります。



図5-14 高圧下での融液徐冷法により得られた窒化ガリウム単結晶の電子顕微鏡写真




 窒化ガリウムは、青色から紫外光の発生に対して優れた特性を有する半導体で、これを用いた発光ダイオードやレーザーなどの研究開発が精力的に行われています。現在窒化ガリウム系デバイスは、主にサファイア基板上に気相成長法で形成された薄膜によって形成されていますが、基板との整合性の問題により、得られる窒化ガリウム薄膜中には多くの欠陥が生じ、これがデバイスの性能向上を阻害する大きな要因となっています。基板に窒化ガリウムの単結晶を用いれば、このような薄膜中の欠陥は大幅に減少することが期待されるため、そのような目的に使用可能な良質の窒化ガリウム単結晶が切望されています。しかし、窒化ガリウムは加熱すると窒素と金属ガリウムに分解してしまうため、単結晶育成の標準的手法である融液の冷却による単結晶の育成は困難であると考えられていました。
 今回私たちは、大型放射光施設SPring-8放射光を用いて、窒化ガリウムの高温高圧下での分解ならびに融解挙動を直接観察し(図5-12)、6万気圧以上の高圧力下では、窒化ガリウムの分解が抑制され、窒化ガリウムのままで融解することを初めて明らかにしました(図5-13)。この観測結果は、新しい窒化ガリウム単結晶育成手法に直結します。すなわち、粉末窒化ガリウムを高圧容器に入れ、6万気圧以上の高圧力下で温度を上昇させることにより窒化ガリウム液体を得たのち、高圧をかけたまま、それをゆっくりと冷却することによって窒化ガリウム単結晶を育成できるということです(図5-14)。得られた単結晶は、各種分析の結果、非常に高品質のものであることが明らかになっています。原研における小型の高圧装置を用いた研究では、得られた結晶の大きさはまだ非常に小さいものですが、今後、ダイヤモンド合成などに使用されている大型高圧装置を用いることにより、薄膜成長用基板として用いることのできるような大型の窒化ガリウム単結晶の育成に向けた研究が展開していくものと期待されています。



参考文献
W. Utsumi et al., Congruent Melting of Gallium Nitride at 6 GPa and Its Application to Single Crystal Growth, Nature Mater., 2, 735 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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