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放射光軟X線分光法でいぶし瓦の光沢と耐久性の由来を解明 |
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瓦は約3000年前に中国で生まれ、仏教とともに飛鳥時代の588年に日本に伝わりました。そして高温多湿な気候風土に適した製法が工夫され、粘土素地を窯で焼きしめた後に松の枝や葉で燻して(燻化)、炭素膜で表面を覆う“いぶし瓦”が生まれました。現在は機械化された設備を使って炭化水素ガス等で燻化しますが、基本的には昔の技術が伝承されています。 いぶし瓦の特徴は、図5-15に示すように灰黒色の光沢とその耐久性であり、これは厚さ数ミクロンの表面炭素膜に起因します。しかし、この特徴についてナノレベルでの理解や定量的な分析はなされておらず、製品品質の更なる向上にむけてシンクロトロン放射光を用いた高精度な分析が期待されていました。そこで、私たちは兵庫県下の瓦企業と兵庫県立工業技術センターの協力を得て、放射光軟X線分光法でいぶし瓦表面炭素膜を分析し、その光沢と耐久性の由来を解明しました。 図5-16に示すいぶし瓦とカーボンブラック粉末のX線発光スペクトルから、瓦表面炭素膜はナノレベルの炭素六角網面を基本構造とするカーボンブラック粒子からなることが分かりました。しかし、試料を回してX線の出射角を変えながら測定したところ、非晶質構造のカーボンブラック粉末ではスペクトル形状変化がみられないのに対し、瓦では角度によって形状が著しく変わりました。この形状変化はカーボンブラック粒子が粘土素地表面に沿った層構造をつくることを示します。形状変化量を定量化して詳細に解析した結果、この層構造の並びの程度は金属光沢を呈する高配向黒鉛の約半分であることが分かりました。これから、図5-17に示すように瓦表面炭素膜は約半分のカーボンブラック粒子が層状に配置し、残り半分の粒子がランダムに配置して層配置粒子の間隙を埋める構造モデルを提案しました。ここでの層配置粒子が光沢を生み、ランダム配置粒子が耐久性を生むと理解できます。 いぶし瓦の表面炭素膜は正に機能材料であり、昔から伝承されてきた燻化技術はナノテクノロジーであるとみなせることが分かりました。現在、放射光軟X線分光法の産業応用展開と地域産業の振興を目指し、いぶし瓦の革新的評価技術の開発に挑戦しています。 |
●参考文献 Y. Muramatsu et al., Characterization of Carbon Films on the Japanese Smoked Roof Tile "Ibushi-Kawara" by High-Resolution Soft X-Ray Spectroscopy, Jpn. J. Appl. Phys., 42 (10), 6551 (2003). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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