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液体窒素温度で分光するマルチ結晶分光器の開発
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世界最高性能を誇るSPring-8の原研専用アンジュレータビームラインBL11XUに、マルチ結晶切り替えシステム(図5-20)を備えた液体窒素循環冷却分光器(図5-21)を開発し設置しました。放射光がシリコン結晶にあたると、結晶は発熱し熱で変形してしまいます。しかし、シリコン結晶を液体窒素温度付近(−190℃)まで冷却すると、シリコン結晶の熱特性が向上し、効率良く結晶を冷却することができます。その結果、非常に高輝度で良質のX線を得ることができます。 私たちの研究では、エネルギーが6 keV〜70 keVのX線を利用しています。BL11XUの分光器は、機械的な制約のため、ブラッグ角が3°〜27°に限られています。そのためSi(111)結晶では4.4 keV〜37.8 keVしか利用できず、より高いエネルギーを使用する場合は、通常Si(311)結晶を使用します。Si(311)結晶では8.3 keV〜72.3 keVまで利用できます。従って使用するエネルギー範囲によって、従来では二種類の結晶を交換しなければならず、その結晶交換には通常3日間〜5日間も必要でした。 そこで、複数の回折面の異なる結晶または素材の異なる結晶を、液体窒素温度の低温下の真空中で切り替えることができる液体窒素循環冷却装置を備えた分光器を開発しました。結晶切り替えの原理(図5-20)は、二組の結晶を並列に並べ、二組の結晶を同時に並進させることで簡単に結晶を切り替えることができます。結晶同士と結晶とホルダー間の熱伝達を向上させるために、インジウムシートを挿入しました。さらに、液体窒素によって各ステージの過冷却防止のために、セラミックブロックを挿入し熱を伝わりにくくさせ、板状ヒーターを組み込んだ銅ブロックを使って設定温度以下にならないようにしました。今回の開発により、今まで使用していたダイヤモンド(111)結晶と比べて、X線の強度はおよそ7倍に向上しました。また、結晶交換は、5×10-5 Pa という真空中で、しかも液体窒素温度下にて、わずか5分間で結晶を交換し調整を終えることができるようになりました。X線回折面の(111)面と(311)面を、エネルギーに応じて切り替えながら使用すると、いつでも6 keV〜70 keVまで強度の大きいX線が利用できるようになりました。 |
●参考文献 H. Shiwaku et al., Cryogenically Cooled Monochromator with Multi-Crystal Switching System on BL11XU at SPring-8, AIP Conference Proceedings, #705, 659 (2004). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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