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水棲生物のメス化を防ぐ
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家畜飼育場、化学工場などからの排水中には、生体内で作られた女性ホルモンと同様の活性を持つ外因性内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)が含まれていて、コイなどの水棲生物の生殖障害やメス化現象を引き起こしていると言われています。 人間や家畜の排泄物由来の17β-エストラジオール(化学構造式を図6-3に示す)は、最も活性の強い女性ホルモンで、極低濃度(数ng/L)でも生物に影響を与えると言われています。魚類への影響と哺乳類への影響とでは試験結果が異なることなど因果関係が明確でないこともあって、現在は、排出濃度基準はなく、河川水の汚染モニタリング対象物質のひとつとして環境汚染拡大防止のための警戒を継続している状況です。現時点では環境ホルモンの具体的な処理例がほとんどなく、例えばフィルター等では捕集除去が困難なほどの低濃度のものを対象としなくてはならないこと、また、紫外線などによる処理方法では、懸濁している排水には利用できず、また大量処理に適さないことなどの課題があります。 私たちは60Coγ線照射により水中に生成するラジカルと呼ばれる反応性の高い物質を利用し、環境ホルモン活性を持つ物質の化学結合を切断するだけでなく、その構造の破壊により活性を喪失する技術の開発を行いました。この方法は、河川等の環境に排出される前の時点で、集中化した排水を処理することを想定したもので、環境ホルモン以外の有害有機化合物の分解や殺菌も同時にできることが期待できます。 環境ホルモンとして生物学的な影響を与えることが表面化する濃度に対し、処理条件を検討するため、6倍から60倍の初期濃度に調整した水溶液を用いて、γ線照射前後の活性を酵素反応に基づくエライザ(ELISA)法により評価しました。 60Coγ線の放射線量に対するエストラジオール濃度(●印)、分解生成物を含めた水溶液の環境ホルモン活性濃度(エストラジオール等価の活性を持つ成分濃度)(▲印)を図6-4に示します。もともとのエストラジオールは、放射線量10 Gy(10 J/kg)でほぼ分解しますが、その分解生成物は依然としてエストラジオールに似た構造を持っています。しかし、その5倍以上の放射線量を与えれば、それらはさらに放射線分解して完全に壊れます。この結果、環境ホルモンとしての影響が表面化する濃度よりも高い濃度であっても、分解生成物もほぼ100%分解し活性をなくすことができました。 今後、この実験室規模の成果に基づき、効率の向上を目指した基礎研究の継続とともに、汚水処理場等における最適な処理プロセスの検討などにより実用化を図る予定です。また、工場などからの排水に含まれるアルキルフェノールなどの天然由来でない環境ホルモン物質についても、その分解・無害化技術の開発を進めています。 |
●参考文献 A. Kimura et al., Radiation-Induced Decomposition of Trace Amounts of 17 β-Estradiol in Water, Radiat. Phys. Chem., 69(4), 295 (2004). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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