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植物色素を蓄積する遺伝子を発見




図6-10 植物フラボノイド色素生合成経路のモデルとtt19突然変異体での色素蓄積異常

TT19遺伝子は、アントシアニジンなどの色素を液胞に蓄積する機能を持つと考えられます(上)。TT19遺伝子が機能しなくなったtt19突然変異体では、液胞へのプロアントシアニジン前駆体の蓄積が非常に少なく、液胞自体も縮小しています(下)。




 アントシアニンやタンニンは植物の主要色素化合物であるフラボノイドであり、多くの植物に存在しています。アジサイやバラなど、花の青紫色から 赤色の色素はその多くがアントシアニンです。カテキンやタンニンは茶渋で、柿などにも多く含まれます。これらは代表的なポリフェノールであり、人の健康に も役立つとされています。
 本研究では、植物で最も研究が進められているシロイヌナズナの色素合成に関わる新規突然変異体tt19を炭素イオンビームを用いて誘発し、その原因遺伝子TT19を発見しました。TT19は、 フラボノイド色素合成に係わる酵素GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)様遺伝子ですが、その機能を生理学的・分子遺伝学的に解析したところ、アン トシアニンの蓄積だけでなく、タンニンの前駆体であるプロアントシアニジンを液胞内に蓄積するためにも必須であることが分かりました(図6-10上)。
 TT19遺伝子が機能しないtt19突然変異体では、アントシアニンとプロアントシアニジン前駆体が液胞内に正常に輸送・蓄積されません(図6-10下)。ペチュニアでは、アントシアニンの細胞内の液胞への取り込みにAN9という遺伝子の存在が知られていましたが、プロアントシアニジン前駆体をも含めた液胞内への取り込みに関する遺伝子の発見はこのTT19が植物で初めてとなります。
 将来、本遺伝子を制御することで、新たな花色を持つ花の開発や、ポリフェノール生産に関与する遺伝子として抗酸化物質の植物生産系開発などに役立つことが期待されます。



参考文献
S. Kitamura et al., TRANSPARENT TESTA 19 Is Involved in the Accumulation of Both Anthocyanins and Proanthocyanidins in Arabidopsis, Plant J., 37(1), 104 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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