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イオンビームで虫歯予防に効くフッ素の秘密を探る
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虫歯予防に効果があるフッ素の秘密を解き明かすため、高速の水素イオンビームを1ミクロン(千分の一ミリ)の大きさに集束させたマイクロビームを用いて、歯質に浸透したフッ素の濃度分布を高精度で測定する新しい分析技術を開発しました。 フッ素が歯質に取り込まれると虫歯予防の効果があることはよく知られており、今や市販の歯磨き剤のほぼ7割にはフッ化物が配合され、歯科医院などでは歯の表面にフッ化物を定期的に塗布することも行われています。ところが、どれくらいの量のフッ素がどのように歯質に取り込まれると虫歯予防効果が高まるのかを定量的に調べる手段は、これまでにありませんでした。従来の化学的な分析法では、歯質試料を薬品で溶かして濃度を分析するため細かな分布を知ることができませんでした。また、電子ビームを用いる方法ではミクロンレベルの位置分解能で濃度分布を測定することができますが、真空中に歯質試料をおかないといけないことから、試料が乾燥しないように人工的な表面処理を施したりして、正確にフッ素濃度分布を測定することができませんでした。 そこで、高速の水素イオンを歯質試料に照射すると、歯質に含ませたフッ素と原子核反応を起こしてγ線が、また、歯質の主成分であるカルシウムを励起させて特性X線を発生することに着目し、これらを2台の検出器で計測することでフッ素とカルシウムの分布を同時に測定するシステム(図6-11)を開発しました。これに、高速水素イオンを大気中の試料(図6-12)に1ミクロンの位置精度で照射できるマイクロビーム技術を応用し、生体内と同様に水分を含んだ状態を保ちながら歯質試料上で水素イオンマイクロビームを2次元的に走査することによって、フッ素濃度分布(図6-13、6-14)を1ミクロンの精度で歯質の形状と重ね合わせて測定することに初めて成功しました。 この方法では、同じ試料を繰り返し使えるので濃度分布の経時的変化を捉えることができるという利点があり、今まで知られていなかった、フッ素含有歯科材料から歯質へのフッ素移行過程を初めて観察することが可能になりました。 この技術開発により、フッ素を含有した充填材料の種類や処理方法などによって歯質へのフッ素の取り込み量が異なることが明らかになり、虫歯予防用の新たな歯科材料や歯磨剤・洗口剤などの開発への貢献が期待されています。 |
●参考文献 H. Yamamoto et al., Fluorine Mapping of Teeth Treated with Fluorine-Releasing Compound Using PIGE, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., sect. B, 210, 388 (2003). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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