7-1

超ウラン化合物で見えた「金属の顔」
―ネプツニウム化合物で初めてのドハース・ファンアルフェン効果―




図7-1 調製した金属Np

水銀を電極に使用した水溶液電解法で得られた金属Npです。


図7-2 NpCoGa5の純良大型単結晶

フラックス法という方法で育成に成功した大きな純良単結晶です。


図7-3 NpCoGa5のドハース・ファンアルフェン振動と2種類の円柱状フェルミ面

ドハース・ファンアルフェン振動の周波数がフェルミ面の断面積に比例します。フェルミ面からは電気抵抗などの伝導電子の性質が分かります。また、この振幅の温度による変化を調べることで、伝導電子の重さが分かります。




 周期律表でウランの右隣に位置するネプツニウム(Np)は、超ウラン元素と呼ばれる人工放射性元素です。放射能が強く取り扱いが難しいために、これまでネプツニウム化合物の電子物性については、ほとんど調べられていませんでした。私たちはネプツニウム化合物の純良単結晶を育成して、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果の観測に成功し、Np の5f電子の電子状態を解明しました。
 まず原料となるNp金属は水溶液電解法で二酸化ネプツニウム(NpO2)から調製しました(図7-1)。この方法は私たちが開発したオリジナルな方法で1g程度の少量の高純度金属を調製するのに優れた方法です。さらにフラックス法で新物質NpNiGa5、NpCoGa5の純良単結晶育成に成功しました(図7-2)。
 ネプツニウム化合物の物性はNpの5f電子が担っています。この5f電子の性質を調べる強力な実験手段がdHvA効果です。これは磁化率が外部磁場の変化によって振動する現象で、dHvA効果によって「金属の顔」とも呼ばれる伝導電子の状態を示すフェルミ面というものを決定できます。さらに伝導電子がどれだけ重くなっているかといったことも微視的に決定できます。
 私たちは超ウラン化合物で初めてNpNiGa5のdHvA効果の観測に成功しました。dHvA効果の実験は、その後NpCoGa5でも成功しました。図7-3はNpCoGa5のdHvA振動とフェルミ面です。αとβの2種類の円柱状フェルミ面が存在し、Npの5f電子が準二次元的な電子状態を形成していることが分かりました。伝導電子は通常の10倍も重くなっており、5f電子が雲のようにゆっくりとたなびいて遍歴していることが分かりました。



参考文献
D. Aoki et al., First Observation of the de Haas-van Alphen Effect in NpNiGa5, J. Phys. Soc. Jpn., 73(3), 519 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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