7-2

ペンタクォーク ・シータ粒子の発見
―SPring-8の高エネルギー逆コンプトンγ線を使って検出―




図7-4 シータ粒子の生成崩壊過程

高エネルギーγ線を中性子に当てることにより、5個のクォークからなるシータ(Θ)粒子が生成します。Θ粒子はK中間子2つと中性子を確認することで検証します。


図7-5 5個のクォークのバリオン共鳴ダイアグラム

Θ粒子はピラミッドの頂点に位置し、反ストレンジ(反ストレンジ)クォークを1つ、u、dクォークを各々2つ持ちます。括弧内は粒子の質量(MeV/c2)です。



 1つのアップ(u)クォークに2つのダウン(d)クォークを加えると中性子ができます。また、1つのクォークに1つの反クォークを加えると中間子となります。湯川博士が予言したパイ中間子は典型的な中間子で、原子核の中の陽子や中性子を結合させる強い力(核力)の源でした。このような簡単な処方箋は一見奇妙に見えますが、宇宙を構成する物質を理解するための基本概念を構築するものです。
 原子力エネルギーの基本である原子核は、核子(陽子と中性子)からできている約1兆分の1センチメートルの世界。その極微の世界の基本粒子である核子は3つのクォークからできています。今まで観測されたバリオンは全て3個のクォークで構成されていることが知られています。しかしながら、クォークが単独で観測された例はなく、さらに「3個のクォーク以外のバリオンは存在しないのか?」という本質的な疑問がありました。理論物理学では、もっとクォーク数の多いハドロン粒子を予想する風変わりな処方箋も許されますが、これまで発見されたことはありませんでした。
 2000年から開始された大型放射光施設SPring-8でのレーザー電子光スペクトロメータ(LEPS)での実験で、最大エネルギー2.4 GeVの逆コンプトンγ線ビームを炭素原子核に当て、光核反応で生成される正負の電荷を持つ2個のK中間子を同時測定し、5個のクォークからなるシータ(Θ)粒子を発見しました。図7-4にΘ粒子の生成とその崩壊の模式図を示します。実験では、原子核内の中性子が高エネルギーγ線を吸収した結果、まず負K中間子と5個のクォークからなるΘ粒子が同時生成され、さらにΘ粒子が中性子と正K中間子に崩壊していることを確認しました。質量1.54 GeV/c2のこの粒子は1個の反ストレンジ(反ストレンジ)クォークと2個ずつのu、dクォークで構成される全く新しいタイプの5個のクォークからなる粒子となる可能性が極めて高いことが分かりました。また、アメリカやヨーロッパの他の研究所の実験でも、この共鳴が観測されました。
 この新発見のハドロン粒子は、図7-5に示すように当初Jaffeらによって議論され、Diakonovらによって予言されていた5個のクォークからなる粒子(ペンタクォーク)の可能性が極めて高く、世界中にインパクトを与えています。インパクトの大きさを証明するように、すでに200篇近くの理論の論文が提出されています。
 一方では、粒子の存在そのものを否定する実験結果も議論されています。500 GeVを越える超高エネルギーでの実験ではなぜか、このペンタクォーク共鳴が観測されないのです。ペンタクォーク粒子の存在自体が、宇宙の物質階層構造に対する認識を変えると考えられ、実験・理論を巻き込んだホットな論争が開始されています。



参考文献
T. Nakano et al., Evidence for a Narrow S=+1 Baryon Resonance in Photoproduction from the Neutron, Phys. Rev. Lett., 91, 012002 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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