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トリプレット超伝導はなぜ起こる?
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超伝導は、巨視的なスケールで生じる量子力学的現象ですが、そのような状態の出現は、マクロな数の電子が同じ状態に凝縮することを意味します。フェルミ粒子である電子がパウリ排他律を満たしながら凝縮する微視的メカニズムは、1957年、有名なBCS 理論によって見事に説明されました。この理論のポイントは、スピンが逆向きの電子2個ずつの対(ペア)をマクロな数だけ作り、それらボゾン的な振る舞いをするペアを同じ運動量状態に凝縮させることにあります。 一般に、電子間にはクーロン反発力がありますが、結晶格子の振動を媒介とする有効的な引力が働き、対を形成することが可能になります。BSC理論で想定していたのは、格子振動に媒介された図7-6(a)のようなs-波の電子対でした。その後、銅酸化物高温超伝導体などにおいて、結晶格子の振動ではなく電子スピンの揺らぎを媒介とするd-波の電子対が示唆されていますが、いずれにしても、スピンが逆向きの電子2個からなる一重項(シングレット)対であることに変わりはありませんでした。 ところが、最近、ルテニウム酸化物や一部のウラン化合物において、スピンが同じ向きの電子2個から成る三重項(トリプレット)の対が生じていることが実験的に明らかになってきました。この時、対波動関数は、空間反転に対して奇のパリティを持つp-波となります。 さて、このようなスピン三重項対形成の起源の一つとして、原子内のフント結合が考えられます。フント結合は、異なる電子軌道間のスピンを揃えるので、局所的なスピン三重項形成には有利に働きますが、同一原子サイト上で有限の対振幅が生じるために、奇パリティが説明できないという問題がありました。 そこで、さまざまなタイプの格子上で、軌道自由度のある理論模型を数値的に解析しました。その結果、図7-6(b)の蜂の巣格子のように反転中心が格子点上にないような非ブラベ格子であれば、フント結合による局所的なスピン三重項が単位胞内で反結合状態を取ることができ、奇パリティスピン三重項対が現れることが分かりました。 ウラン化合物UPt3やUGe2においてスピン三重項対が示唆されていますが、これらの結晶は非ブラベ格子なので、このシナリオが適用できる可能性が考えられます。 |
●参考文献 T. Hotta et al., Odd-Parity Triplet Pair Induced by Hund's Rule Coupling, Phys. Rev. Lett., 92(10), 107007 (2004). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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