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超伝導に隣接した反強四極子秩序相の発見
―軌道の自由度が媒介した新しい超伝導機構は存在するのか?―




図7-7 PrOs4Sb12の結晶構造と磁場誘起反強磁性構造



図7-8 PrOs4Sb12の磁場誘起反強磁性秩序に伴う中性子散乱ピーク



図7-9 (a) PrOs4Sb12の温度-磁場相図 (b) 高温超伝導体やウラン超伝導体のPrOs4Sb12の温度-磁場相図




 超伝導は、低温で金属の電気抵抗がゼロになる現象です。電気伝導を担う電子二つがペアを作って結晶中を自由に動き回ることで超伝導が起こりま す。通常の金属では、結晶格子の熱振動によって正のイオンが集まった瞬間に、その電荷をうち消すように電子が集まり、結合します。一方、高温超伝導体やウ ラン超伝導体では、今まで知られていたとは全く異なった超伝導が出現していることが分かってきました。これらの物質では、超伝導と磁石の状態が同時に現れ ます。伝導電子が互いに避け合う性質が強い(強相関と呼ばれる)ために、電子の分布(波動関数)が重ならなくても電子同士に引力が働く磁気媒介メカニズム の方が、安定に超伝導電子対を作ることができると考えられています。
 最近、PrOs4Sb12と いう非常に興味深い超伝導体が発見されました。この物質は、図7-7に示したような結晶構造を持ち、低温まで磁性を示しません。ところが、この物質を 0.25Kの超低温に冷却し、8 Tの磁場をかけて中性子散乱実験を行ったところ、反強磁性秩序していることが分かりました。図7-8はその証拠となる実験結果です。図7-8で観察された ピークは、Pr原子の磁気モーメントが反強磁性秩序していることを示しています。磁場を消し去ると、磁気的な中性子散乱ピークが消失しています。観察され たデータから明らかになった磁石の構造を図7-7に矢印で示します。Pr原子の4f電子による原子磁石が、互いに反対方向に向きがずれた構造をしていることが分かります。この奇妙な磁気構造を詳細に解析した結果、Pr原子が持つ4f電子の電荷分布が磁場中で変化して、いわゆる4f電 子の持つ四極子モーメントが、交互に反対方向を向くように整列していることが分かりました。このような電子の分布、すなわち軌道が整列した状態が現れる温 度、磁場を調べて相図をつくると(図7-9(a))、この物質の超伝導状態に隣接していることが明らかにされました。今まで知られていた高温超伝導体やウ ラン超伝導体の相図では(図7-9(b))、超伝導と磁気秩序が共存したり、非常に近くに存在していることが知られ、磁気を媒介とした超伝導発現機構の可 能性が示唆されてきました。その類推から、PrOs4Sb12においては四極子が超伝導の発現に関与している可能性が期待されます。四極子-軌道ゆらぎが媒介となった超伝導が存在するのか? さらに研究が進められています。



参考文献
M. Kohgi et al., Evidence for Magnetic Field-Induced Quadrupolar Ordering in the Heavy-Fermion Superconductor PrOs4Sb12, J. Phys. Soc. Jpn., 72, 1002 (2003).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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