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磁気レンズで中性子を収束する




図7-10 超伝導六極磁石を利用した中性子磁気レンズ写真

内部に組み込まれている6つの超伝導磁石により、中性子ビームを収束させるための六極磁場を発生させます。



拡大図(50KB)

図7-11 中性子磁気レンズの特性試験システム

単色化及び偏極化された中性子が、スリットを通して中性子磁気レンズに導かれます。そして、中性子磁気レンズを通過した中性子ビームプロファイルが、レンズの焦点に置かれた2次元検出器で観測されます。



図7-12 2次元検出器で観測された中性子ビームプロファイル

超伝導六極磁石を励磁すると、励磁しない時と比べてより多くの中性子がビーム中心付近に集まる様子が観測されます。




 中性子は、電気的に中性なので物質中を透過しやすい、原子核により散乱されるため水素のような原子番号の小さな元素にも敏感であるなどの性質を持つことから、物質科学や生命科学などの試料解析に有用なものとなっています。現在、実験に使われる中性子ビームは研究用原子炉や加速器を使って発生させますが、ビーム強度が弱いために扱える試料などが制限されるという問題があります。
 そこで、ビーム強度を高め、中性子の解析性能のさらなる向上を図るために、中性子ビームの軌道が磁場の強さの空間的な変化を感じて曲がる性質を利用した中性子磁気レンズの開発を、科学技術振興調整費「中性子光学素子の開発と応用」に基づき、(独)理化学研究所と共同で行いました。このレンズには、六極磁石と呼ばれる磁石を使います。六極磁石とは、中心軸の周りにN極とS極が交互に6個並んだ磁石で、その内部には中心軸に沿った穴が空いています。この穴の内部には、六極磁場と呼ばれる磁場の分布が発生しますが、ここに中性子ビームを通すと、中性子磁気モーメントと磁場との相互作用により、ビームは収束されます。この六極磁石を中性子磁気レンズとして実用化するためには、大口径で強い磁場の生み出せる六極磁石の開発が必要となります。私たちは、超伝導磁石を用いて、約50 mmの口径を持つ中性子磁気レンズの開発に成功しました(図7-10)。JRR-3を使ってこのレンズの特性試験を行ったところ、非常に優れた収束性能が確認できました(図7-11、図7-12)。



参考文献
H.M. Shimizu et al., Neutron Optics and a Superconducting Magnetic Lens for Small-Angle Neutron Scattering with Focusing Geometry, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. A, 529, 5 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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