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中性子散乱を用いて量子相転移を直接観測する
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従来の磁性体においては、スピンをベクトルとしてとらえ、それらの向きの秩序・無秩序として磁性を理解してきました。これらを古典スピン系というのに対し、最近ではスピンをベクトルとして捉えたのでは理解することができない量子効果が顕著に現れたさまざまな磁性が発見されてきています。これらは古典スピン系に対し量子スピン系と呼ばれています。ここで取り上げるTlCuCl3という物質はスピンギャップという量子スピン系特有の磁性を示し、今回、この系において圧力誘起量子相転移を直接観測しました。 TlCuCl3はスピン1/2を持つCu2+イオンが二つ組になった二量体(ダイマー)を基本単位とした結晶構造をとっています。この系ではダイマーの中に強い反強磁性交換相互作用があるために基底状態として非磁性一重項状態を形成し、励起三重項状態との間に有限なスピンギャップが開きます。また、三次元的なダイマーの配置に伴って三次元的な交換相互作用も持ちますが、ダイマー内の相互作用が十分強いために、まわりのみんなと少しずつ協力してエネルギーを下げる(三次元磁気秩序状態)よりも、そのまま二つずつペアを維持して非磁性(非磁性ダイマー状態)になった方がよりエネルギーを下げることができます。 では、それに圧力を加えていくとどうなるでしょうか? 圧力を加えていくと結晶が圧縮されることによって先程のダイマー間の距離が近くなることが予想されます。そうするとダイマー間の相互作用が強くなっていき、今度はダイマー状態よりも三次元磁気秩序状態の方がエネルギーをより下げられる可能性が出てきます(図7-13)。つまりこれは、圧力による非磁性ダイマー状態と三次元磁気秩序状態の競合問題になるわけです。 磁気秩序の発現は中性子磁気ブラッグ散乱によって直接的に観測することができ、実際にこの系に静水圧P=1.48 GPaの圧力を加えたところ、TN=16.9K以下で図7-13にあるような磁気秩序を示す磁気ブラッグ散乱を観測しました。 さらに、偏極中性子散乱実験も行ったところ、図7-14にあるようにTSR=10Kでもう一回相転移を起こすことも観測しました。偏極中性子散乱ではスピンのa-c面内成分<Sac>とb軸成分<Sb>を完全に分離できることから、私たちはこのTSR=10Kの相転移はTN=16.9Kで磁気秩序化したスピンがa-c面内からb軸方向にさらに変化し始める相転移であるという結論に達しました。 今後は、この系の磁場誘起量子相転移と同様にマグノンのボース・アインシュタイン凝縮として、この圧力誘起量子相転移が理解できるかどうかさらに研究を進めていきたいと思っています。 |
●参考文献 A. Oosawa et al., Pressure-Induced Successive Magnetic Phase Transitions in the Spin Gap System TlCuCl3, J. Phys. Soc. Jpn., 73, 1446 (2004). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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