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微視的なハドロン物理で巨視的な中性子星を探る
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中性子星はその名のとおり主に中性子からなり、半径約10 kmとコンパクトながら、質量は太陽の約1.5倍という高密度な天体です(図7-15)。超新星爆発で生まれた後、しばらくはニュートリノを放出して冷えていきます。その放出の度合い、つまり冷え方は星内部の組成によって違うため、表面温度の観測は内部を探る重要な情報源です。 中心部周辺の密度の高さを考えると、ストレンジネスを持つハイペロンなど核子以外のバリオン・中間子(ハドロンと総称)やクォークがそこに存在する可能性が十分にあり、これらの粒子があれば中性子星はより速く冷えます。しかし中には速すぎて観測と合わないものも存在し、その場合には冷却を制御する何らかの機構が必要です。 その候補としては内部物質の超伝導・超流動状態があります。その仕組みは電子の場合と同じで、中性子などバリオンと呼ばれる粒子がクーパー対を組み、系のエネルギーが下がることでこれらの状態が実現します。過去の研究で、超伝導・超流動状態下では上記のニュートリノ放出が抑えられ、中性子星はゆっくり冷えることが分かっています。 内部が主にハドロンでできていることから、中性子星の内部は高密度ハドロン物質の特性を基に知ることができます。そこで私たちは、特殊相対論を満たす理論的模型(相対論的Hartree-Bogoliubov模型)を用いて、核子とΛハイペロン(以下Λ)から成る高密度ハドロン物質中で起こるΛ超流動状態について調べました。その結果、背景核子密度ρNが高くなるにつれてΛ超流動状態が起こりにくくなることを明らかにしました(図7-16)。これは、核子間とΛ間の相互作用を共通に媒介する中間子の存在により、ρNが増すとΛの密度が同じであっても、Λの(相対論的Dirac)有効質量が減ることが原因です。Λ超流動の研究は数年前に非相対論的模型で初めてなされましたが、本成果は相対論的模型でなければ得られない新しい知見です。 このことと、ΛΛ間の引力がこれまで考えられていたより弱いという最近の実験結果とから、Λが存在する密度領域(ρN > 2ρ0)で、Λ超流動はニュートリノ放出抑制効果をさほどもたらさない可能性が出てきました。そこで現在は、その他のハイペロン対や異種粒子対による超伝導・超流動状態について探っています。 |
●参考文献 T. Tanigawa et al., Possibility of ΛΛ Pairing and Its Dependence on Background Density in a Relativistic Hartree-Bogoliubov Model, Phys. Rev. C, 68(1), 015801 (2003). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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