8-1

狙った同位体原子を選択的に切り取る
―振動励起状態からの光分解反応―




図8-1 伸縮振動している分子の光分解のイメージ

緑色の原子が作る化学結合が伸縮振動している分子を光で分解すると、その振動のおかげで、緑色の原子が取れやすく、また青色の原子が作る化学結合が伸縮振動している分子では、青色の原子が取れやすくなります。



図8-2 NHD2分子のNH伸縮振動状態(赤線)とNH2D分子のND伸縮振動状態(青線)からの光分解で生成したHとDの原子スペクトル

NH結合が伸縮振動している分子を光分解すると、H原子が優先的に切り取られ(赤線)、逆にND結合が伸縮振動している分子を光分解すると、D原子が優先的に切り取られる(青線)ことが分かります。




 分子の中にある、特定の原子のみを選択的に切り取ることができれば、新しい機能を持った素材を作り出すことが容易になると想像できます。狙った原子が形成する化学結合が伸び縮み(伸縮振動)している分子に、光を照射して分解すると、その振動のおかげで狙った原子のみを優先的に切り取ることができるかもしれません(図8-1)。
 私たちは、異なる水素同位体原子を含むアンモニア分子(NH2DまたはNHD2)に対して、レーザーを用いて伸縮振動している状態をいったん作り出してから、243.1 nmの波長を持つ紫外レーザーで光分解した場合の、NH結合が切断される確率とND結合が切断される確率の比を調べました。分解生成したHとD原子の生成比から、NH結合が伸縮振動している状態(5νNH振動状態)と、ND結合が伸縮振動している状態(5νND振動状態)とでは、図8-2に示すとおり、切断確率の比が大きく異なることが分かりました。NH結合を伸縮振動させた場合、NH結合が切れやすく(赤線)、またND結合を伸縮振動させた場合、ND結合が切れやすくなりました(青線)。このことから、伸縮振動している状態から光分解を起こすことで、狙った同位体原子を切り取りやすくすることに成功した、といえます。
 この方法を応用することで、同位体を制御した新しい素材の開発に繋がると期待されます。



参考文献
H. Akagi et al., Bond-Selective Photodissociation of Partially Deuterated Ammonia Molecules: Photodissociations of Vibrationally Excited NHD2 in the 5νNH State and NH2D in the 5νND State, J. Chem. Phys., 120(10), 4696 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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