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アクチニド原子核を使うとサブバリアの融合確率が増加




図8-3 16O+238U反応で生成されるフェルミウム同位体の生成断面積

横軸は反応エネルギーを表します。



図8-4 16Oと238Uの融合確率

横軸は反応エネルギーを表し、238Uを球形とした時のクーロン障壁の高さで規格化しました。




 ウラン238(238U)などのアクチニド原子核は、レモン型に変形していることが知られています。この原子核に加速された重イオンを衝突させると、レモンの先から当たる場合と、レモンの側面から当たる場合があります。重イオンがレモンの先から入射すると原子核間のクーロン障壁を低く感じます。このため、低い衝突エネルギーでも原子核同士が反応することになります。もし、このエネルギー領域(サブバリア領域)で融合が起これば、球形の原子核を標的するよりも低いエネルギーで融合反応が起きることになりますが、詳細な実験データはこれまで存在しませんでした。
 本研究では、酸素16(16O)を238Uに衝突させ、低い衝突エネルギーでも原子核同士が融合するかを実験的に調べました。融合が起こるとフェルミウム(Fm; 原子番号100番)が生成されます。実験では、250,249,248Fm の生成断面積(図8-3)を決定し、これから融合する確率を決定しました。
 原研タンデム加速器でさまざまなエネルギーに16Oを加速して238U標的に当てました。フェルミウム同位体はα崩壊核種なので、この崩壊数からフェルミウム同位体の生成断面積を得ました。図8-4は、実験データから解析によって得られた16Oと238Uの融合確率を示します。同図には、238Uが丸いと仮定した時の融合確率(点線)と、238Uの変形効果を取り入れた計算結果(実線)を示します。238Uが変形しているため、計算ではエネルギーの低い領域で融合確率が増大しており、実験値をよく再現しました。この結果、16Oが238Uの先端部から衝突しても融合が起こることが分かりました。衝突させるエネルギーが低いので、複合核の励起エネルギーが低く押さえられて蒸発粒子の数が少なくなるため、重い同位体ができます。変形したアクチニド原子核と入射イオンをエネルギーの低い域で融合させることで、新しい同位体生成の可能性が生まれました。



参考文献
K. Nishio et al., Evidence of Complete Fusion in the Sub-Barrier 16O +238U Reaction, Phys. Rev. Lett., 93(16), 162701 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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