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高エネルギーイオン照射によるFe系合金の磁性改質に成功 |
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GeVのエネルギーに加速された高エネルギーイオンを固体に照射すると、イオンの軌跡に沿った領域だけ高密度に格子欠陥が形成され、大きな物性変化を起こすことがあります。これは、入射イオンからターゲット物質へ、数十keV/nmという非常に高密度のエネルギー伝達が起きるからです。しかしながら、これまでは、イオン照射は、ターゲット物質を「損傷」させ、物性を「劣化」させるものというイメージが強く、その劣化挙動を詳細に調べたり、損傷をコントロールする技術の開発が従来の主な研究課題でした。しかし、イオンのエネルギーや照射量をうまくコントロールすることにより、物性変化領域の空間制御が可能になるだけでなく、物性自体を制御性良く変化させることができるので、イオン照射の材料プロセッシング法としての可能性は、以前から指摘されていました。 本研究では、照射ターゲット選択の際に、Fe-Niインバー合金を用いました。その理由は、この物質の磁気的性質が、結晶構造に敏感で、圧力印加や組成変化によって容易に変化することが知られていたので、何らかの磁性変化が期待できるからです。その結果、数GeVのUイオンやXeイオンの照射により、Fe-Niインバー合金のキュリー温度(常磁性―強磁性転移温度)が、高温側にシフトすることが分かり、イオン照射で確かに磁性が変化することを発見しました(図8-5)。イオン照射による「劣化」ではなく、質的に異なる機能を持った物質をターゲット母材に導入することができたのです。おそらく、照射によって格子欠陥が形成されているのでしょうが、それが物性の劣化という形ではなく、キュリー温度上昇という磁性変化として照射効果が現れた珍しい例だと言えます。これは、照射によってインバー合金の格子間距離が、局所的に増加したから、あるいは、照射によってFeとNiの組成比が局所的に変化したからと考えられています。 また、図8-6に示しているように、イオン種やイオンエネルギー、照射量の制御によりキュリー温度などの磁性をコントロールできることを実証することができました。 |
●参考文献 A. Iwase et al., Anomalous Shift of Curie Temperature in Iron-Nickel Invar Alloys by High-Energy Heavy Ion Irradiation, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. B, 209, 323 (2003). |
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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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