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3価の超ウラン元素と希土類元素の高性能な実用分離技術開発




図8-13 新しいキレート抽出剤 2,6-ビス(3-(5,6-ジアルキル-1,2,4-トリアジニル))ピリジンの分子構造式


図8-14 Amと希土類元素との抽出クロマトグラフ法による分離実験の結果

I:カラムの空体積、II:フィード液、III:硝酸/硝酸ナトリウム水溶液、IV:薄い硝酸水溶液、V:水
新しいキレート抽出剤を担持した吸着剤によって、Amと希土類元素が、ほぼ完全に、相互に分離されていることが、この図から分かります。Am、希土類元素ともにほぼ100%が回収されており、Amへの希土類元素の混入率も分析下限以下(0.5%未満、Gdの場合)となりました。



 原研では、高レベル放射性廃棄物が持つ長期の放射能毒性を低減する核変換を研究しています。核変換の実用化には、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)など、長半減期の超ウラン元素を分離・回収する技術は必須のものです。ここで、鍵となるのが、ともに3価のカチオンであり、化学的性質の非常に良く似た、希土類元素(イットリウム、ランタノイド元素)と、Am、Cmとの分離です。これまで世界で開発されてきた分離・回収技術では、回収されたAm、Cmには、0.3%〜20%と程度の差はありますが、希土類元素が混入する結果となっていました。希土類元素は、物質量が多く(軽水炉使用済燃料の場合で高レベル放射性廃液に含まれる元素全体の約1/3の重量)、中性子を吸収する性質を持つため、核変換の実用化には、これら希土類元素を、できるだけAm、Cmから分離できる実用的な技術が必要です。
 今回、(財)産業創造研究所と共同で開発した技術は、抽出剤を担持した吸着剤を用いる、抽出クロマトグラフ法に基づくものです。この方法は、これまでの溶媒抽出法と比べると、分離の理論段数を多くすることが容易で、高い純度で目的物を回収することが期待できるものです。ここで、希土類元素に対してAm、Cmとより選択的に結合する新しいキレート抽出剤を合成(図8-13、合成法はドイツで開発)し、それを吸着剤に担持する抽出剤として用いたことが、この技術の特徴です。
 実験の結果(図8-14)、希土類元素から分離されたAmを、高い収率で得ることができました。この技術は、簡単で単純な装置による実用化が可能であり、高レベル放射性廃棄物の放射能毒性の低減に向けた研究開発に、大きなブレークスルーをもたらすことが期待されます。



参考文献
Y.-Z. Wei et al., Separation of Am(III) and Cm(III) from Trivalent Lanthanides by 2,6-Bistriazinylpyridine Extraction Chromatography for Radioactive Waste Management, J. Alloy. Com., 374(1-2), 447 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2004
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