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核反応を利用して物質中のトリチウムの深さ分布を測る
―粒子ビーム核反応分析法を用いた水素同位体深さ分布の絶対測定―




図2-7 核反応分析原理

重陽子ビームと標的元素(重水素やトリチウム)との核反応によって生成された荷電粒子のエネルギーと収量を検出器で計測し、エネルギースペクトルを得ます。次に得られたエネルギースペクトルから重水素やトリチウムの深さ分布を求めます。分析できる深さの限界は、重陽子ビームのエネルギーや試料への入射角、検出器の配置などで決まります。今回の分析条件では、表面から深さ2 μmまで分析できます。



図2-8 エネルギースペクトルから求めたJT-60U、TFTRプラズマ対向壁中の重水素およびトリチウム深さ分布

(a)重水素は、JT-60Uでは表面付近にしか存在していないのに対して、TFTRでは深部までにわたって存在していることがわかりました。なお、負の深さにも分布しているのは、測定系が有限の深さ分解能をもつことにより生ずるもので、実際に存在するわけではありません。
(b)トリチウムは、JT-60Uでは表面付近に存在しませんでした。それに対して、TFTRではトリチウムも燃料粒子としているので、重水素と同様、表面から存在していることがわかりました。




 核融合炉の真空容器内壁(プラズマ対向壁)には、燃料粒子である重水素やトリチウムが蓄積していきます。これはプラズマ制御やトリチウム安全管理を考える上で望ましいことではありません。このような水素同位体挙動を明らかにするためには、実機で使用されたプラズマ対向壁内の重水素やトリチウム蓄積量を正しく評価する必要があります。
 そこで、原子深さ密度分布の絶対測定が可能な、重陽子ビームによる核反応分析法を用いて、核融合実験装置JT-60U(日本原子力研究所)やTFTR(プリンストン大学)で使用されたプラズマ対向壁内の重水素、トリチウム深さ分布測定を行いました(図2-7)[1]。
 図2-8(a)及び(b)に示す様に、両対向壁中の水素同位体分布は異なっている事がわかりました。JT-60Uの場合、トリチウムはプラズマ中での重水素イオン同士の核反応によってのみ生成されます。このようなトリチウムは運動エネルギーが高く、壁内深くまで侵入するため、表面付近には存在しないことが確認できました。
 また、TFTRの場合はトリチウム、重水素共に表面から奥深くまで分布していました。TFTRでは装置運転の都合上プラズマが対向壁の一部に接触するため、表面損耗によるダストと共に水素同位体が対向壁表面に堆積し、結果として奥深くまで水素同位体が分布していたと考えられます[2]。
 今回分析を行ったのはごく一部ですが、系統的にプラズマ対向壁を分析する事で、水素同位体挙動を明らかにする重要な情報が得られると期待されます。



参考文献
[1]K. Ochiai et al., Measurement of Deuterium and Tritium Retentions on the Surface of JT-60 Divertor Tiles by means of Nuclear Reaction Analysis, J. Nucl. Mater., 329-333, 836(2004).
[2]久保田直義 他、核反応分析を用いたTFTRプラズマ対向壁表面近傍の水素同位体分布測定、プラズマ・核融合学会誌、81(4)、296 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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