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トカマク内壁の炭素堆積膜を透過電子顕微鏡で観る




図2-9 ダイバータ配位のプラズマ断面とインボード側ダイバータ板上の炭素堆積膜の位置関係



図2-10 ダイバータ板上に形成された炭素を多く含む堆積膜の透過電子顕微鏡写真

写真はトーラスの接線方向に試料をきり出して観察したものです。左側に引き出し線で示した表面から約20層が、該当する運転期間の最終20ショットに対応しています。



図2-11 柱状組織の形成機構を示す模式図

低温の基板表面に斜め上方から炭素イオンが入射すると入射方向に傾いた柱状組織が形成されます。




 トカマク型核融合装置では超高温プラズマの熱・粒子の流入から真空容器を護るため、極めて溶け難い材料である黒鉛で内壁面を覆っています。現行のトカマクでは、ダイバータという周辺プラズマを排気する構造を有しており、外側のダイバータ板(黒鉛製)では損耗が、一方内側では炭素の堆積が生じることが判っています(図2-9)。そこでJT-60のプラズマに直接曝されるインボード側ダイバータ板上に運転中に生じた炭素堆積膜を高分解能の透過電子顕微鏡により断面観察し、このような堆積膜の成長機構を調べました。
 写真は約20ショットの水素プラズマ放電に対応してできた炭素堆積膜の、透過電子顕微鏡による断面像を示します。ショット毎に堆積膜が積もって行く様子が捉えられています(図2-10)。トーラスの接線方向に 収束イオンビーム加工(FIB)という手法で試料を切り出して観察した結果です。ダイバータ板の表面に対し強力な磁場に沿って不純物炭素イオンが斜め上方から飛来したため、低い加熱入力のダイバータ配位放電に対応する部分では、傾斜した柱状組織の成長が、一方、高い加熱入力では層状組織が顕著であることが明瞭に捉えられています。すなわち柱状組織は、(1)ダイバータ板の表面温度が低く、表面に飛来した堆積粒子が堆積表面で移動し難く、(2)飛来粒子が基板表面に対し斜めに入射する条件下で自己シャドウ効果により大きく成長することが判りました(図2-11)。またこの様な組織では微細な空孔が膜の厚み方向に向かって多く存在し、水素の拡散が容易であると考えられます。将来の核融合実験炉ではこのような炭素堆積膜中に取り込まれるトリチウムの蓄積量の低減が課題となっており、今後堆積膜の構造と水素の吸脱着特性の関係を明らかにして行く予定です。



参考文献
Y. Gotoh et al., Transmission Electron Microscopy of Redeposition Layers on Graphite Tiles Used for Open Divertor of JT-60, J. Nucl. Mater., 329-333, 840 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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