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高出力マイクロ波でロケットを飛ばす!
―核融合用ジャイロトロン技術の宇宙分野への応用―




図2-12 高出力マイクロ波による模型ロケット打ち上げの瞬間の様子とロケット内部でできたプラズマ

(1)透明シートで作られた模型ロケットに下側からマイクロ波が入射されます。(2)、(3)プラズマが生成され、衝撃波が発生します。光は気中放電プラズマ。
(4)プラズマが消えた後、ロケットは上方に数mの高さまで飛行します。



図2-13 高出力マイクロ波によるロケット打ち上げの原理と核融合用高出力マイクロ波発生装置ジャイロトロン

高出力マイクロ波を集光することで気中プラズマを生成し、その衝撃波によって推進力を得ます。



図2-14 推進力の性能を表す運動量結合係数の比較

パルス幅が短い方が大きな値が得られます。マイクロ波推進の性能は、レーザー推進の性能に匹敵します。




 核融合で使用する大電力のマイクロ波(周波数100 GHz帯、波長〜2 mm)を用いてロケットを打ち上げる技術を、東京大学と協力して開発しました。国際熱核融合実験炉ITER及びJT-60用に開発したプラズマ加熱・電流駆動用高出力マイクロ波発生装置「ジャイロトロン」からごく短時間の間に放出されたMW級のマイクロ波を、ロケットに取りつけたパラボラ鏡で反射・集光させることで、空気を燃料とするプラズマを発生させ、その衝撃波を推進力とし、小型の模型ロケットを数mの高さまで打ち上げることに成功しました(図2-12)。
 宇宙開発においては、ロケット打ち上げコストの削減は重要な要素です。現在主流である化学推進ロケットの場合、実際に軌道への投入できる機器重量は、ロケットの打ち上げ初期重量のわずか数パーセントに限られています。そこで打ち上げコストを大幅に下げる手段として期待できるのが、地上より高出力のマイクロ波を介してロケットにエネルギーを供給して飛行する推進システムです(図2-13)。大気圏内では、空気を燃料として利用することができるため、推進エネルギー源となる燃料と推進装置を打ち上げ機に搭載する必要がありません。地上にレーザーやマイクロ波の発生基地を建設するだけで良いので、打ち上げコストの点で大きな魅力となります。
 この概念は既に1970年代初頭に提案され、これまではビーム指向性の観点から高出力のレーザー発振源を用いた飛行推進システムとして研究が行われてきました。しかし、地上からの打ち上げで想定される100 km程度のビーム伝送距離であれば周波数が100 GHz程度のマイクロ波でも十分な指向性を得ることができることに着目し、100 GHz帯の高出力マイクロ波を発生させることができる核融合装置用ジャイロトロンを用いて、マイクロ波ビーム集光によるプラズマの生成と衝撃波による推進力発生の基礎研究を世界で初めて開始しました。エネルギー回収機構を備えたジャイロトロンは、MW級のマイクロ波への電力変換効率が50%以上と高いので、大電力が必要な複数のシステムを考えた場合、大きなメリットとなります。しかも基礎実験において、投入したマイクロ波電力と推力の比である運動量結合係数を用いて推進力の性能を評価したところ、0.1ミリ秒において400ニュートン(N)/MW以上を記録しました(図2-14)。この値は、これまでのレーザーによる推進に匹敵する性能であり、高出力マイクロ波を用いた打ち上げは、宇宙輸送システムにブレークスルーをもたらす可能性があると考えています。



参考文献
T. Nakagawa et al., Propulsive Impulse Measurement of a Microwave-Boosted Vehicle in the Atmosphere, J. Spacecr. Rockets, 41(1), 151 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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