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臨界事故時のγ線吸収線量を成分別に評価
―臨界事故時被ばく線量計測の精度向上に向けて―




図3-1 TRACY炉心タンク

炉心タンクは、内径7.6 cm、外径50 cm、高さ2 mの円環形状で、この中にウラン濃縮度10 wt%の硝酸ウラニル水溶液を燃料として給液します。最大で核分裂数1×1018個までの臨界事故を模擬することができます。



図3-2 溶液系臨界事故時のγ線成分の概念図

γ線は、線量計測上、次の4成分に区分されます。すなわち、臨界継続中に観測される (1) 核分裂及び中性子捕獲反応と同時に放出される「即発成分」、(2) 核分裂片の崩壊に伴い時間遅れをもって放出される「遅発成分」、及び (3)γ線線量計素子の中性子捕獲反応により偽のγ線吸収線量として計測される「擬似成分」、並びに (4) 臨界停止後も核分裂片や中性子を吸収して放射化した周辺構造材から放出され続ける「残留成分」です。



図3-3 臨界事故時のγ線成分別線量割合の空間分布

この図は、TRACYにおいて四ホウ酸リチウムTLDを用いた場合の典型的な評価結果を示します。γ線成分の合算吸収線量は、炉心タンクからの距離の2乗にほぼ反比例して減衰します。その成分別の線量割合は、周辺構造材による照射場の乱れにより、空間的に変化します。臨界継続中のγ線被ばく線量を評価する上で除外すべき擬似成分及び残留成分の寄与は、全γ線吸収線量の16〜31%程度と見積もられました。




 臨界事故が発生すると、核分裂連鎖反応の急激な進行に伴い大量の中性子線とγ線が放出され、事故現場近傍の作業員に致命的な放射線被ばくを及ぼすおそれがあります。原研では、溶液系臨界事故時の中性子線及びγ線による被ばく線量評価に関する研究を過渡臨界実験装置(TRACY、図3-1)を用いて行っています。近年の私たちの研究により、γ線計測を精度よく行うためには、γ線放出挙動を基に区分された成分別に吸収線量を評価しなければならないことが分かりました。つまり、溶液系臨界事故時に観測されるγ線は、図3-2に示すとおり4つの成分に区分されますが、これまでは、遅発成分、擬似成分及び残留成分は無視できると仮定し、即発成分のみを評価対象としていたため、精密な線量評価とは言えませんでした。
 そこで、臨界事故時線量計測の精度向上に向けて、これら4成分に着目し、それらの線量割合を初めて評価しました。評価に当たっては、臨界継続中の即発、遅発及び擬似成分をコンピュータ解析により弁別するとともに、臨界停止後の残留成分を実験により分離計測し、計算値と実験値との比較によりそれらの線量割合の妥当性を検証しました。実験では、人体筋肉と組織等価なγ線線量計である四ホウ酸リチウム(7Li211B4O7)熱蛍光線量計(Thermoluminescent Dosimeter:TLD)をTRACY炉心タンクの周りに配置し、線量割合の空間変化についても調べました。
 評価の結果、その成分別線量割合は、即発成分が全吸収線量の半分以上を占めるものの、その他の成分も無視できない寄与であること、また、線量割合は炉心タンクからの距離に応じて変化することが確かめられました(図3-3)。このγ線成分別の線量評価によって、臨界事故時のγ線被ばく線量を正確に評価する上で除外すべき線量成分の寄与を定量的に明らかにすることができ、臨界事故時被ばく線量の評価精度を向上させることができました。



参考文献
H. Sono et al., Evaluation of Gamma-ray Dose Components in Criticality Accident Situations, J. Nucl. Sci. Technol., 42(8), 678 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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