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数μ秒で大強度陽子ビームを停止させる装置の開発
―大強度陽子加速器施設 ビーム高速停止システム―




図4-1 J-PARC線形加速器各部でのビーム衝突許容時間 (ワーストケース)

イオン源で生成された陽子ビームは最初に線形加速器(リニアック)内で加速されます。ビームが何らかの原因で加速器に衝突した場合、ビームはエネルギーが低いほど浅い深さでエネルギーを熱に換えて停止します。そのため、ACS付近では部材の表面を熱にて損傷させるまでに数十μ秒の許容時間がありますが、RFQではわずか2 μ秒で加速器部材表面を損傷させてしまう可能性があります。



図4-2 J-PARCのビーム高速停止システム

ビーム衝突を検出する高速応答ロスモニタが衝突を検出すると、その信号はビーム高速停止装置を経由して直ちにRFQの高速遮断半導体スイッチを切り、ビームをμ秒オーダーで停止させます。



図4-3 計測したサージ雑音の例

電化製品のコンセントの抜き差しによって発生したサージ雑音の64回平均波形を示します。サージ雑音は、停止装置内に平均360 mV、250 n秒発生します。計測された最大電圧は3 Vでした。高速停止装置では、2.4 Vを基準電圧としているため、このような瞬間的な雑音で誤動作することが分かりました。




 現在建設中の、大強度陽子加速器(J-PARC)は、世界で稼動している従来の短パルス駆動型陽子加速器より、1桁ほどビーム出力が高い1 MWの陽子ビーム出力性能を目指しています。J-PARCでは、加速器を構成する機器が何らかの原因で故障した場合には、ビームが予定軌道から外れて加速器部材に衝突して、図4-1に示すようにμ秒という短時間で、大きな熱損傷を与える可能性があります。さらに、ビーム衝突により機器が放射化すると、速やかな保守点検も難しくなります。そのため、衝突時には数μ秒以内で、ビームを停止させる必要があります。
 これまでに、このような短時間でビームを停止させる装置が製作されたことがありますが、高電力パルスで加速する際に加速器機器自らが生じる電磁雑音と思われる影響により誤動作が多く発生し、実用化されませんでした。また、雑音についての分析もされていませんでした。 
 そこで、要求される数μ秒以下で応答する誤動作の少ないビーム高速停止システム(図4-2)を構築できるかを検討し、そのシステムに用いる高速停止装置を試作して誤動作の原因を究明しました。その結果、装置が誤動作する原因は、加速器自らが生じる電磁雑音の影響が大半を占めると思い込まれていただけで、サージ雑音と呼ばれる日常的に起こりえる自然発生雑音が、電源系統から入ることが大きな要因であることを突き止めました。
 私たちは、問題となる雑音の周波数及びその雑音の継続時間を計測し(図4-3)、高速停止装置内のFPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれるプログラミング可能なLSIの中に、真の衝突信号のみが選択されるようなロジックを組み込むことで、雑音環境下でも高速かつ高信頼な応答性が確保できるシステムを構築します。



参考文献
榊泰直 他、機器保護用高速インターロックユニット試作機の性能試験、JAERI-Tech 2004-021 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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