現在建設中の、大強度陽子加速器(J-PARC)は、世界で稼動している従来の短パルス駆動型陽子加速器より、1桁ほどビーム出力が高い1 MWの陽子ビーム出力性能を目指しています。J-PARCでは、加速器を構成する機器が何らかの原因で故障した場合には、ビームが予定軌道から外れて加速器部材に衝突して、図4-1に示すようにμ秒という短時間で、大きな熱損傷を与える可能性があります。さらに、ビーム衝突により機器が放射化すると、速やかな保守点検も難しくなります。そのため、衝突時には数μ秒以内で、ビームを停止させる必要があります。
これまでに、このような短時間でビームを停止させる装置が製作されたことがありますが、高電力パルスで加速する際に加速器機器自らが生じる電磁雑音と思われる影響により誤動作が多く発生し、実用化されませんでした。また、雑音についての分析もされていませんでした。
そこで、要求される数μ秒以下で応答する誤動作の少ないビーム高速停止システム(図4-2)を構築できるかを検討し、そのシステムに用いる高速停止装置を試作して誤動作の原因を究明しました。その結果、装置が誤動作する原因は、加速器自らが生じる電磁雑音の影響が大半を占めると思い込まれていただけで、サージ雑音と呼ばれる日常的に起こりえる自然発生雑音が、電源系統から入ることが大きな要因であることを突き止めました。
私たちは、問題となる雑音の周波数及びその雑音の継続時間を計測し(図4-3)、高速停止装置内のFPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれるプログラミング可能なLSIの中に、真の衝突信号のみが選択されるようなロジックを組み込むことで、雑音環境下でも高速かつ高信頼な応答性が確保できるシステムを構築します。 |