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原子炉の中性子照射による187Re-187Os原子核宇宙時計の高精度化
―隕石分析や天体観測による超新星爆発の年代計測のために―




図4-6 原子核宇宙時計の概念図

原子核時計は砂時計と同じような原理で、原子核が生成された年代を測定する手法です。砂が落ちるように、長寿命の原子核が、一定の割合で娘核に変換されます。親核と娘核の量から、経過時間を知ることができます。



図4-7 Re-Os近傍の核図表の一部

水色の原子核が、主にs過程で生成されたs核を、右側の紫色の原子核が主にr過程で生成された原子核を示します。私たちの研究以前では、赤い矢印のs過程の元素合成のパスが全く考慮されていませんでした。このパスを経由して、187Reの一部がs過程で生成されます。



図4-8 図4-8 中性子捕獲反応とβ崩壊

186Reには、基底状態の他に、2.0×105年の半減期を持つアイソマーが存在しています。185Reから中性子捕獲によって、最初に186Reの励起状態が生成されます。励起状態から、基底状態とアイソマーに分岐します。これまで、誤差の評価を伴った分岐の割合が未計測なため、アイソマーの生成が無いとされていました。しかし、アイソマーへの分岐が存在すれば、赤い矢印に沿って、原子核宇宙時計である187Reが生成されます。




 原子核宇宙時計とは、187Re、 238U等の長寿命の放射性同位体の親核と娘核の比から、親核である原子核宇宙時計が生成された年代を計測する手法です(図4-6)。実際に、天体観測による恒星の年代、隕石の分析による太陽系生成の研究等に広く利用されています。このような原子核宇宙時計の利用には、どのような重元素合成過程で、どのように原子核宇宙時計が生成されたのか、精密に評価する必要があります。
 187Reは、超新星爆発において発生すると考えられている急速な中性子捕獲反応過程(r過程)で生成され、超新星爆発の年代測定に使える原子核宇宙時計として知られています。私たちは、図4-7に示すように、r過程で生成された187Reに対して、これまで考慮されていなかったs過程の寄与がある可能性を発見しました。s過程とは、中規模の質量を持つAGB(Asymptotic Giant Branch、漸近巨星枝)星で進行すると考えられている遅い中性子捕獲反応過程です。これまで、186Reのアイソマーを経由した中性子捕獲反応が考慮されていませんでした。何故なら誤差の評価を伴った中性子捕獲による186Reアイソマーの生成率が全く分かっていなかったためです。
 本研究では、研究用原子炉JRR-3、JRR-4で照射実験を行いました。Reの試料に熱中性子を24時間照射し、4ヶ月冷却しました。その後に、β崩壊を測定することで、186Reアイソマーの中性子による生成率を初めて計測しました(図4-8)。生成率は0.54±0.11%です。さらに、この実験データから、187Re-187Os原子核宇宙時計を用いた年代測定に対する影響を評価しました。その結果、このアイソマーの効果を考慮する場合としない場合で、最大2%の違いが出ることが判明しました。将来、天体観測や隕石分析の測定精度の向上のためには、アイソマーの効果を考慮する必要があることが判明しました。



参考文献
T. Hayakawa et al., New s-Process Path and Its Implications for a 187Re-187Os Nucleo-Cosmochronometer, Astrophys. J., 628, 533 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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