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燃える氷の構造を中性子で探る
―中性子回折でメタンハイドレートの結晶構造を解明―




図4-9 中性子構造解析によって明らかになった低温におけるメタンハイドレートの原子核密度分布(温度:10K)

黄色がHの原子核密度を表し、緑色はその他の原子の核密度を表しています。また、青色は原子核密度の断面であり、明るい色ほど原子核の密度が高いことを示しています。メタンハイドレートを構成する水のHをDで置き換えることで、水で構成されたカゴのHとその中のメタンのHとを明確に識別することに成功しました。



図4-10 メタンハイドレートを構成する2種類の氷のカゴについての原子核密度分布の温度依存性

10Kでは14面体中のメタンのHがカゴの六員環に引き寄せられていることが分かりました。また、カゴの種類によってメタンの運動の温度依存性が異なることを明らかにしました。




 メタンハイドレートは、氷が形成するカゴの中にメタンガスが内包されている物質で、燃える氷と呼ばれています。これは我が国の近海の海底に大量に埋蔵されている物質であり、天然ガスに代わる次世代のエネルギー資源として非常に有望視されています。この資源の構造などの基礎物性を解明することで発掘、輸送及び貯蔵などについて効率良く活用できると考えられています。
 中性子は水素(H)や炭素(C)などの軽元素を容易に観察できます。さらに、Hと重水素(D)は中性子に対する感受性(中性子散乱長)が大きく異なるためにそれぞれ識別できます。この特長を活かし、水を構成するHをDで置換し、中性子回折によりメタンを構成するHとを識別しました。今回、従来よりも微細で粒径の均一な氷を原料として用い、メタンガス圧力や合成温度などの合成条件を見直したことで、単一相であることなど世界最高品質を持つメタンハイドレートの合成に成功しました。これにより、精密な構造解析が可能となりました。JRR-3に設置されている高分解能粉末中性子回折装置(HRPD)を用いて、10Kの低温からメタンハイドレートの分解温度直下(180K)までの温度範囲に渡って中性子回折パターンを測定しました。さらにリートベルド法とマキシマムエントロピー法を併用した構造解析を行い、メタンハイドレートの原子核密度分布を可視化することに成功しました(図4-9)。メタンハイドレートは、水分子で構成された12面体と14面体の2種類のカゴが組み重なった構造をしており、それらのカゴの中にそれぞれメタンが内包されています。12面体中では、メタンを構成するCがカゴの中心に観測できましたが、Hの位置は見えていません(図4-10)。これは、12面体中のメタンはCを中心に自由な回転運動をしているためと説明できます。この12面体中のメタンの様子は温度によって変化しませんでした。一方、14面体中では、温度によってメタンの平均構造が変化することが明らかになりました。すなわち、10KではメタンのHがカゴの六員環方向へ引き寄せられていることが分かりました。80Kでは12面体中のメタンと同様にCを中心に自由な回転をしています。150Kでは、メタンのCも見えなくなります。これは、メタンがさらに激しくカゴの中を動き回るためと説明できます。これらの結果から、カゴの種類によってメタン分子の平均構造に温度依存性の違いがあることを見出しました。



参考文献
A. Hoshikawa et al., Maximum Entropy Method Analysis of Neutron Powder Diffraction Patterns of Methane Deutrohydrates, Proceedings of 5th International Conference on Gas Hydrates (ICGH-5), Jun. 13-16, 2005, Trondheim, Norway, 5, 1619 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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