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高温超伝導と格子振動との間の密接な関係
―発現機構解明へ向けての一歩―




図5-4 La2-xSrxCuO4の結晶構造(左)と、CuO2平面内の酸素原子の動く格子振動(右)



図5-5 濃度勾配のある高温超伝導試料La2-xSrxCuO4

グラフと写真のピンクの矢印部分が対応しています。



図5-6 La2-xSrxCuO4における転移温度(Tc)と、格子振動のエネルギー低下のSr濃度(x)依存性

図5-4(右)にあるような原子の動きを含む格子振動が、超伝導転移を起こす試料(Sr濃度xを変化させるとTcも変化する)のところで対応して、理論で予想される直線的な変化(緑の直線)以上に盛り上がっているように見えます。




 1911年の発見以来、電気抵抗がゼロであるという超伝導状態は、送電ケーブルや電磁石の線材、その他への応用が考えられ、精力的に研究が進められてきました。しかしこの現象は、非常に低温でしか起こらないために未だにその用途は限られており、転移温度(Tc)を少しでも高くしようという研究が続けられてきました。こういう状況下、1986年の高温超伝導体の発見は一つの大きな転機となり、その後Tcの最高値は飛躍的に上昇することとなりました。
 これらの高温超伝導体の多くはペロフスカイト構造をとる銅酸化物であり、内部にCuO2平面が含まれています(図5-4)。そしてこの平面内の格子やスピンの揺らぎが超伝導の発現に大きな役割を果たしているものと考えられています。しかし、発見以来20年近く経つ現在でもその超伝導機構にはまだまだ不明な点が多く、確固たる共通理解には至っていません。
 私たちは、大型放射光施設SPring-8の強力な放射光を用いた高分解能X線非弾性散乱法で、高温超伝導物質を格子振動という立場から研究してきました。従来より、格子振動の測定には中性子非弾性散乱法が用いられることが多いのですが、X線を用いると小さな試料でも測定できるという利点があります。
 そこで、東北大学金属材料研究所の協力を得て、高温超伝導物質の一つであるLa2-xSrxCuO4でストロンチウム(Sr)濃度(x)が試料内の位置によって連続的に変化している試料を準備し(図5-5)、測定位置を変化させることで絶縁体相から超伝導相を通り金属相までの広い濃度領域について系統的に調べることに成功しました。その結果、主にCuO2平面内の酸素原子の動きからなる格子振動のエネルギーが、超伝導を発現する試料では予想される直線的な変化以上に小さなくなっていること(ソフト化)を明らかにしました(図5-6)。これは、この格子振動と超伝導とが密接な関係を持っていることを強く示唆しており、今後の超伝導発現機構における格子振動の役割の理解に向けたよりいっそうの理論及び実験研究を促すものとなっています。



参考文献
T. Fukuda et al., Doping Dependence of Softening in the Bond-Stretching Phonon Mode of La2-xSrxCuO4 (0x0.29), Phys. Rev. B, 71, 060501(R) (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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