7-2

超重元素ラザホージウムの特異な性質を発見
―元素の周期律は超重元素の化学的性質を説明できるか?―




図7-3 Rfを対象にした化学分離実験の流れ

タンデム加速器で加速された18Oビームは248Cmターゲットと反応し261Rfを含む核反応生成物を作り出します。反応生成物はエアロゾルに吸着し、Heガスの流れで超小型迅速イオン交換分離装置に運ばれ、化学処理されます。イオン交換樹脂への吸着の様子は、α線あるいはγ線の測定から得られるRfやZr、Hfの分布によって観測します。


図7-4 陰イオン交換樹脂に吸着するRf、ZrおよびHfの割合とフッ化水素酸濃度の関係と周期表

フッ化水素酸濃度の変化に対してRfと同族元素のZrおよびHfの吸着挙動が全く異なることが分かります。右上の図はRfを含む4族元素を中心とした周期表の一部です。



 加速器を利用することでしか合成できない104番元素ラザホージウム(Rf)以降の人工元素は超アクチノイド元素あるいは超重元素と呼ばれ、周期表の第7周期に属します。超重元素はこれまで原子番号118までの合成が報告されていますが、合成された超重元素の化学的な研究は、ほとんど行われていません。元素はどこまで存在し、メンデレエフの提唱した元素の周期律はどこまで適応できるか、未知の元素に関する研究は、これまでにない新たな疑問を私たちに投げかけます。また、このような答えを追い求めることは、私たちの物質観にかかわる実に興味ある問題です。周期律がどこまで適応できるかという疑問に対する答えは、超重元素の化学的性質を調べ他の周期の同じ族の元素と比較することから始まります。私たちは超重元素Rfの塩酸あるいは硝酸溶液中における化学的な振る舞いについて調べ、これまでに周期表第4族としての性質を確認してきました。最近、フッ化水素酸中におけるRfのフッ化物錯体の形成に関する研究を進めたところ、以下のようなRfの特異な振る舞いを発見することに成功しました。
 研究の対象としたRfの同位体261Rfは、原研タンデム加速器で加速された18Oビームと放射性ターゲット248Cmの核反応で1分間にわずかに2原子しか合成されません。また、半減期も78秒と短いために化学的性質を調べるには高効率で迅速な実験手法を特別に開発する必要があります。本研究では合成したRf同位体を含む核反応生成物を、エアロゾル粒子とヘリウムガスの流れで迅速に化学分離装置へ運ぶ手法を用いて、α線測定までの一連の化学操作を自動化した超小型迅速イオン交換分離装置に迅速に搬送し(図7-3)、Rfの化学的性質を観測しました。そして、フッ化水素酸濃度に対するRf及び同族元素であるジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)の陰イオン交換樹脂への吸着挙動を観測したところ、図7-4のようにRfの吸着挙動がZr及びHfと大きく異なることを明らかにしました。この違いは吸着挙動の詳細な解析から、Rfとフッ化物イオンにより形成した陰イオン錯体の価数とZr及びHfの陰イオン錯体の価数が、同一条件下で異なること、すなわち、Rfに配位するフッ素の数が同族元素と異なることに起因することが分かりました。
 このように同一条件の下で、超重元素の振る舞いが同族元素と明らかに違うこと、そして形成される化学種が同族元素と異なると考えられることを実験的に確認したのは初めてのことです。



参考文献
H. Haba et al., Fluoride Complexation of Element 104, Rutherfordium, J. Am. Chem. Soc., 126, 5219 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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