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原子核のマジック構造のトリックを解明する




図8-1 安定核における原子核内の陽子または中性子(核子と総称される)の各軌道(1s1/2等)とそのエネルギー

軌道間の大きなエネルギーギャップ(シェルギャップ)と、それよりも下の軌道に入りうる核子の総数が丸囲み数字(魔法数)で表されていますが、中性子過剰核でもこの大きなエネルギーギャップが普遍的に存在するかどうかは確かめられていませんでした。



図8-2 Na同位体における(a)電気的四重極能率、(b)磁気双極子能率の実験値と計算値を比較、(c)計算から求めたマジック構造の占める確率

中性子数19、20の同位体では、マジック構造が完全に消滅していることが明らかになりました。




 原子核には、その形が球形のものの他に、ラグビーボール形やみかん形に変形したものが数多くあります。その形状は、魔法数(マジックナンバー)と呼ばれる数に支配されていることが知られており、魔法数近辺の陽子あるいは中性子数をもつ原子核は一般に球形であり、そこから離れるにつれて変形していく構造(マジック構造)がこれまでの原子核物理学の常識でした(図8-1)。
 近年、自然界に存在する安定な原子核よりもはるかに中性子の多い原子核(中性子過剰核)の構造が理解されつつあります。その中で、このマジック構造が消滅し、魔法数近くでありながら大きく変形している原子核が中性子数20領域のナトリウム(Na)同位体などで発見されています。その有力なメカニズムとして、ある特定の陽子数では変形が非常に好まれるため、球形を好む中性子が陽子に引っ張られて全体的に変形することが挙げられていました。しかし、微視的な原子核構造計算の困難さなどから、明確な結論が得られていない状況でした。
 本研究では、殻模型と呼ばれる微視的核構造理論計算をタンデム加速器棟にある並列計算機Helios等で遂行することによって、マジック構造が中性子過剰核で消滅するメカニズムを追求しました。Na同位体の電気的四重極能率と磁気双極子能率に着目し、その実験値と計算値を比較しました。その結果、マジック構造が消滅するとこれまで知られていた31Na(中性子数20)の他に、中性子数が19である30Naにおいてもマジック構造が消滅するということを初めて定量的に明らかにしました(図8-2)。
 中性子19の同位体で既にマジック構造が消滅するという事実は、これまでの単純な陽子・中性子相関によっては説明できません。さらなる解析の結果、中性子過剰核においても安定核と同様に大きなシェルギャップを仮定しては、この事実が再現されないことが分かったため、核力の微視的性質を反映してシェルギャップが核子数に大きく依存することがマジック構造消滅のメカニズムの一つであると判明しました[1]。
 本研究の帰結として、マグネシウム(Mg)においても中性子数19の同位体でマジック構造が消滅することが予言されますが、つい最近行われた31Mgの磁気モーメントの測定とその計算値との比較[2]から、その予言が正しいことが実証されました。



参考文献
[1] Y. Utsuno et al., Onset of Intruder Ground State in Exotic Na Isotopes and Evolution of the N=20 Shell Gap, Phys. Rev. C, 70(4), 044307 (2004).
[2] G. Neyens et al., Measurement of the Spin and Magnetic Moment of 31Mg: Evidence for a Strongly Deformed Intruder Ground State, Phys. Rev. Lett., 94(2), 022501 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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