9-1

極微小粒子のウラン同位体比を測定する
―保障措置環境試料分析技術の高度化を目指して―




図9-1 インパクタ法による拭き取り試料からの粒子回収(左)とU粒子の電子顕微鏡写真(右)

拭き取り試料中の粒子をポンプで吸引して試料台上に捕集し、存在する無数の粒子の中から微小なU粒子(写真で白く見えている)を見つけ出して分析します。



図9-2 U粒子の二次イオン質量スペクトル

上側は天然Uの粒子、下側は235Uが35%に濃縮された粒子の質量スペクトル。235Uの比率の違いが分かります。このように個々のU粒子の同位体組成を調べることにより、試料が採取された原子力施設で用いられている235Uの濃縮度を知ることができ、未申告活動の探知ができます。



図9-3 U粒子のフィッショントラックの顕微鏡写真

粒子を専用のフィルム中に閉じ込めて原子炉で中性子照射すると、Uを含む粒子では235Uが核分裂を起こし、核分裂片のフィッショントラック(飛跡)が形成されます。これを光学顕微鏡で観察することにより容易にU粒子を見つけ出すことができます。この方法では、粒径1 μm未満の微小な粒子の検知が可能です。




 保障措置環境試料分析は、原子力施設の設備や床などを拭き取った環境試料(拭き取り試料)に含まれる極微量のウラン(U)等の核物質を分析し、その同位体組成から未申告の核物質や原子力活動を探知しようとするものです。原研はクリーンルーム施設を有する高度環境分析研究棟において、試料を全て溶液化して分析するバルク分析法と、試料中に含まれる個々の粒子を直接分析するパーティクル分析法の双方を開発し、国際原子力機関(IAEA)のネットワーク分析所の一員となりました。
 パーティクル分析法では、拭き取り試料中の粒子を専用の測定用試料台上へ回収する方法として、粒子をポンプで吸引し、慣性衝突により試料台上に直接捕集するインパクタ法を開発しました(図9-1)。これにより、夾雑物が少なく、かつ適度に分散した粒子の回収が可能となりました。また、全反射蛍光X線分析法においては、表面が平滑なシリコン製試料台に臨界角以下でX線を照射することによってノイズレベルを下げました。これによりUの検出下限を約30ピコグラム(pg: 10-12 g)まで改良し(従来は数ナノグラム(ng: 10-9 g))、試料台に含まれるU量を予め評価することが可能となり、分析時の試料の取り扱いが容易になりました。これらによって、二次イオン質量分析(SIMS)法による粒子1個1個のU同位体比測定(図9-2)の精度を向上させるとともに、分析の大幅な効率化が図られました。
 感度の限界のためSIMS法による測定が困難な直径1 μm未満のU粒子については、フィッショントラック法による粒子検出法を開発しました(図9-3)。検出した極微小粒子のU同位体比を正確に測定するために、表面電離型質量分析法の改良を現在行っています。
 今後、本研究で開発した技術を環境中の極微量物質の分析などへ応用を図るとともに、分析感度の向上や処理時間の短縮などを目指した新たな技術開発を進め、環境問題の解決、産業活動の促進、原子力の平和利用の推進等に貢献する予定です。



参考文献
F. Esaka et al., Efficient Isotope Ratio Analysis of Uranium Particles in Swipe Samples by Total-Reflection X-ray Fluorescence Spectrometry and Secondary Ion Mass Spectrometry, J. Nucl. Sci. Technol., 41(11), 1027 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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