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海底に沈む物質の履歴を探る
―「ミニ大洋」日本海における粒子状物質の移行過程の解明―




図9-4 1 m2あたりの海底堆積物中に存在する239Pu + 240Pu量の分布

日本海では、プルトニウムなどの海水中で粒子化しやすい人工放射性核種の蓄積量が南東部で大きいことが分かりました。



図9-5 セジメントトラップ

海中の任意の深さに設置し、表層から海底に向かって沈降する粒子(沈降粒子: セジメント)を捕集します。複数期間(1期間は数日から1カ月程度)の沈降粒子を自動的・連続的に捕集できます。



図9-6 日本海の3海域(ロシア・ウラジオストック沖、石川県能登沖、北海道奥尻沖)の水深1 km層を通過する、アルミニウムの沈降粒子束(1 m2あたり、1年あたりの粒子沈降量)の分布と陸起源粒子の供給源

日本海の深さ1 km層を通過して深海に運ばれる粒子の量と元素組成から、海水中の陸起源粒子を、アジア大陸から主に大気経由で運ばれる粒子(黄色で示した部分)、対馬暖流に沿って水平的に輸送されると考えられる粒子(赤色部分)、日本列島などの弧状列島から供給されると考えられる粒子(黒色部分)といった供給経路ごとに分類し、それぞれの深海への輸送量を推定しました。



 日本海の周囲には、多くの原子力施設が存在することなどから、日本海における物質移行の解明は、その周辺諸国における海洋環境の保全のために不可欠な課題です。さらに日本海は、海水の出入り口が浅いすり鉢状の海底地形を持つことや、冷暖2つの水塊が存在することなどから、海洋全体における物質循環解明のためのモデル海域、すなわち「ミニ大洋」として扱うことができます。これらの背景から、私たちは、日本海を対象海域として、放射性核種の分布と、海水やその中に存在する諸物質の動きを解明する研究を進めています。
 1997年から2002年にかけて日本及びロシアの排他的経済水域内で行なった調査では、同海域における人工放射性核種の分布が明らかになり、海底堆積物への人工放射性核種の蓄積量は南東部の一部で大きいことが分かりました(図9-4)。そこで、海底堆積物の元となる粒子状物質の輸送過程を明らかにするため、日本海の3海域でセジメントトラップ(図9-5)によって沈降粒子(海水中を表層から海底に向かって沈む粒子)を捕集し、得られた粒子の元素分析を行ないました。粒子中のランタン等の元素組成から、陸起源粒子をアジア大陸起源の黄砂粒子、対馬暖流によって水平輸送される粒子、日本列島などの弧状列島から供給される粒子といった経路ごとに分類し、それぞれの深海への輸送量を見積もりました(図9-6)。西部(ウラジオストク沖)では、東部に比べて大量の陸起源粒子が捕集され、その大部分は黄砂起源と見積もられました。一方、東部(能登沖および奥尻島沖)では、黄砂粒子の深海への輸送量は西部の半分以下で、東シナ海や日本列島起源と考えられる粒子による寄与が大きいことが分かりました。
 本研究によって描かれた粒子状物質の移行過程をシミュレーションモデル化することにより、「ミニ大洋」である日本海ばかりでなく、他の海域における放射性核種等の移行の予測にも役立たせる予定です。



参考文献
S. Otosaka et al., Lithogenic Flux in the Japan Sea Measured with Sediment Traps., Mar. Chem., 91(1-4), 143 (2004).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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