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フェルミ原子ガスとナノスケール超伝導体に共通する新奇な超流動の発見
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近年、ナノスケール(10-9 m)で初めて現れる特異な材料物性の探索が物理や工学などの研究分野で進められています。なかでも、特にナノスケールサイズに閉じ込められた超伝導体の特異な振る舞いやその発現機構の解明は、産業上の有用性からも多くの研究者の興味を集めてきました。 一方、原子物理学の最前線にある希薄原子ガスの研究分野では、ボーズ原子のボーズ・アインシュタイン凝縮からフェルミ原子の超流動転移、そしてレーザーの干渉により作られる光学格子中(図10-4(上図))での超流動・絶縁体転移など、固体材料中で起こりうる様々な現象を完全に再現できることが示されたのです。そして、レーザー光や磁場などを連続的に変化させることで、それらの現象を固体材料よりはるかに容易にかつ系統的に研究できることも分かってきたのです。つまり、ナノスケールの超伝導体の物性は光学格子中のフェルミ原子ガスの量子状態を調べることで、より詳細にかつ容易に理解できる可能性があります。 私たちは、この興味深いフェルミ原子ガスに対し、最も高精度で量子状態を計算できる方法として知られている厳密対角化法を用いて、高温超伝導体と極めて類似した状況を人工的に作り出して、その超流動の発現機構を調べました。その際、地球シミュレータのアーキテクチャの特徴を生かしたベクトル化・並列化アルゴリズムも開発し、これまで誰も計算したことのない大きさ(1000億次元を超える)の超巨大行列の量子基底状態を数分で計算することにも成功しました[1]。 計算では、対象とする物理モデルを表現する行列を対角化することで量子状態を求めますが、その状態が超流動状態にあることを確かめるため、2つのフェルミ原子間の結合エネルギーを計算します。一般に結合エネルギーが正の時は、原子間に斥力が働きますが、負の時は実効的に引力が働き、量子状態は超流動になると考えられています。 私たちが対象とするフェルミ原子ガスでは、図10-4(下図)のように、格子点上で異なるスピンを持つ粒子間に斥力U が働き、t という運動エネルギーを持ちながら、格子点を渡り歩くという高温超伝導体の簡単なモデルと同等な状況を想定した一方、粒子を中心に集める働きをする閉じ込めポテンシャルを加えました。その結果、粒子間に斥力U が働くにもかかわらず、粒子数が増え、かつ斥力U が大きい場合に結合エネルギーが負になる(超流動)という極めて興味深い結果を得ることができました[2](図10-5)。しかも、フェルミ原子ガスでは閉じ込めポテンシャルを任意に調節できるという利点を持つため、この超流動(結合エネルギー)を自由に制御可能であることも今回の数値計算で初めて見出しました[2]。これらの超流動は、フェルミ原子ガスで実現可能であるばかりでなく、もし図10-4(下図)に示した閉じ込めポテンシャルを固体中で実現できれば、ナノスケールでの高温超伝導を制御できるということも意味しています。 |
●参考文献 [1]山田進 他、強相関電子系における超大規模固有値問題―地球シミュレータ上でのベクトル並列計算、情報処理学会論文誌:コンピューティングシステム、45(SIG6(ACS6))、161 (2004). [2]M. Machida et al., Novel Superfluidity in a Trapped Gas of Fermi Atoms with Repulsive Interaction Loaded on an Optical Lattice, Phys. Rev. Lett., 93(20), 200402 (2004). |
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