1.5 中性子でタンパク質をはじめて見た
   

 

図1-6  中性子イメ−ジングプレ−トが捉えたリゾチ−ム単結晶の中性子回折像

 


 タンパク質の生理機能はその3次元構造と直接関係しているので、これを理解するにはタンパク質の立体構造を解析することが極めて重要です。X線を使って立体構造を解析することで数々の重要な研究が行われてきました。しかし、生体物質は構成元素の約半分がX線回折の際に最も寄与の小さな水素であるため、それら水素の位置をX線解析で決定することはとても難しいのです。これに対して中性子回折が使えれば、水素の位置決定は容易であるし、使うエネルギーが低いので照射損傷の心配も少なくなります。そうはいってもこの実験は容易ではありません。タンパク質結晶の単位格子の体積は大きくて普通の無機物質の結晶の場合に比べて中性子線の反射強度は4〜5桁も落ちてしまいます。このため強い中性子線を使って、大きな単結晶試料に入射することが実験成功の鍵となります。さらに回折系から得られる出力を検出するために、中性子検出効率が高く、広いダイナミックレンジを持ち、位置分解能のよい検出器(中性子イメ−ジングプレ−ト)を開発することが必要になってきます。このような考えで開発した回折系と検出器を用いることにより世界で初めてリゾチームタンパク質の像(図1-6)を得ることに成功しました。この結果から、今まで未知だった生体物質の水素分布に関する情報を得ることができます。


参考文献

N. Niimura, et al. Small Angle Neutron Scattering from Lysozyme in Unsaturated Solutions to Characterize the Pre-Crystallization Process, J. Chryst. Growth, 137, 671 (1994).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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