2.10 中性子によるトリチウムの生産
   - ブランケット設計の信頼度を高める - 

 

図2-19  円環状ブランケットを模擬した実験

トカマクのドーナツ型のブランケットを線状に延ばした形で模擬しています。右側から伸びているビーム・ラインの先端にトリチウム・ターゲットがあり、重陽子ビームを照射して、14 MeVのDT反応の中性子を発生させます。また、実験システムをこのターゲット(中性子源)に対して往復運動させ、線状の中性子源として模擬して実験を行います。

 
 

図2-20  トリチウム生成率の信頼度と設計裕度との関係

例えば、原研の計算手法(JAERI/MORSE)を採用した場合、トリチウム生成率の設計値について100%の信頼度を得ようとすると設計裕度(安全係数)は1.16となります。これは、トリチウムの増殖を考えて生成率1.1を100%の信頼度で確保するためには、16%の余裕、すなわち、設計計算でのトリチウム生成率として1.1×1.16=1.28が要求されることを示します。

 


 核融合炉のブランケットでは、リチウムの化合物を用いて、核融合反応で生ずる中性子とリチウムとの反応で燃料の一部であるトリチウムを自己生産(増殖)する仕組みを考えています。実際にブランケットの中でどのくらいトリチウムが生成できるか、その生成率などを予測することは、核融合炉の開発上大変重要な課題です。
 原研では、核融合炉における中性子のいろいろな振舞いを研究する目的で、加速器型核融合中性子源FNSを建設し、早くから多くのデータを提供してきました。とくに、ブランケット内でのトリチウムの生成については、基礎的な工学的評価を行うため、日米共同ブランケット実験をFNSを用いて実施しました。この研究では、トリチウム増殖材として酸化リチウムを用い、いろいろなブランケット模擬体を製作し、より核融合炉に近いブランケットの構成や配置を考慮しながら、トリチウムの生成率などを測定しました(図2-19) 。計算結果との綿密な比較などの総合評価を行い、ブランケット内でのトリチウムの生産について、核設計上どの程度の余裕をみればよいかなどの定量的な目安を初めて明らかにすることができました(図2-20)。


参考文献

大山 幸夫、他、核融合炉ブランケットの中性子工学に関する日米協力研究、日本原子力学会誌、Vol.36、No.7、p.611-618 (1994).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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