3.4 電子ビームで大気をきれいにする
   

 
図3-8  パイロット試験における脱硝率と脱硫率

脱硝効率は排煙中の窒素酸化物の初期濃度に強く依存し、初期濃度が低いほど効率がよい。また、脱硫効率は排煙の温度が低いほど高くなる。電子線の照射法を工夫することによって、8.3kGyの線量で脱硝率80%、脱硫率94%以上の目標値を達成した。

 

 
図3-9  石炭火力発電所排煙処理パイロットプラントの全景
   


 石炭などを燃やした排煙中には、酸性雨の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物などの有害物質が含まれています。都市ごみ燃焼排煙中には、このほかプラスチックの燃焼で発生する塩化水素や有機塩素化合物のような有害物質も含まれています。さらに、塗装工場などからの排気ガス中には揮発性有機化合物などが含まれます。
 原研では、電子ビーム照射により排煙主成分の窒素を電離・励起し、続いて放射線化学的な反応を経て、最終的にはそれぞれの排煙の場合に最適の方法で有害物質を除去するための研究開発を行いました。すなわち、石炭排煙の場合はアンモニア添加により硝安・硫安肥料として除去します。都市ごみ排煙の場合は粉末状カルシウム塩として除きます。この技術は現在、電力会社・自治体・企業などと共同でパイロット試験を実施し、プロセスの技術的・経済的評価を行っているほか、開発途上国への技術移転も検討されています。


参考文献

徳永興公 他, 電子線照射利用(4)電子線照射による環境汚染物質の処理、Radioisotopes、43、781 (1994).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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