9.1 研究概要
  

  

図9-1 原子炉材料の使用範囲

 


図9-2 材料研究部の組織と研究テーマ

 


 軽水炉、高温ガス炉、高速炉など、ウランおよびプルトニウムの核分裂反応を利用する核分裂炉では、燃料の周辺で使用する材料は核分裂反応によって生じた中性子の照射を受けます。固体材料に中性子を照射すると、材料を構成する原子の配列が乱れるほか、核変換反応によってヘリウムや水素などのガス原子が生じます。このため、固体材料は脆くなったり、膨れ(スエリング)や材料の方向によって伸縮する寸法変化が起ります。これらの中性子照射による材料特性の変化は、使用中の材料の温度の影響を受けます。さらに、冷却材による腐食反応の速度も高温になるほど大きくなるだけでなく、中性子照射によって加速されます。
 原子炉材料が実際に使用されている、温度および中性子照射量の領域を図9-1に示します。この図は、核融合炉で想定されている材料の使用領域も併せて示しています。また、材料が中性子の照射に耐える限界の照射量は中性子のエネルギーに依存するので、中性子の照射量は材料を構成する原子の平均はじき出し数(dpa:displacements per atom)を単位とした表示をしています。
 核融合反応によって発生したエネルギーを発電に利用する動力炉では、ブランケット構造材料が高速増殖炉の炉内構造物に比べてdpa換算で2桁ほど大きな中性子照射に耐えることが要請されています。さらに、その材料は、核分裂炉に比べて非常にエネルギーの高い中性子の照射を受けることになります。また、核融合炉では天然に存在しないトリチウムを燃料とするため、燃料を生産するための増殖材料が必要になります。これらのことから、核融合炉では、高エネルギーの中性子照射に長時間耐える材料の開発、および近い将来に建設が計画されている実験炉の固体増殖材料が設計仕様どおりの性能をもつことを確かめる確性試験が必要になります。このようなことは核融合炉に限らず、経済性の観点から、より高温でより長時間の使用に耐える材料の開発がもとめられているのです。
 核融合炉における材料特性の変化を直接調べることができる実験炉が現実には存在していないので、材料試験炉や高速実験炉を利用するほか、照射時間が短縮できる加速器を利用するイオン照射試験や超高圧電子顕微鏡を用いた電子線照射試験を活用して、核融合炉材料の開発研究や確性試験を進めています。また、これらの放射線照射による材料特性の変化と核融合炉の中性子照射による特性変化を関連づけるために、材料の照射損傷に関する基礎的な研究を続けています。さらに、これらの試験研究から、核融合炉における材料特性の変化が予測できることを確認するために、核融合反応によって生じる中性子と同程度に高いエネルギーをもった中性子が発生できる強力中性子源の建設を計画しています。
 放射線照射によって、材料を構成している原子の配列が変化することから、酸化物高温超電導材料など非金属の機能材料において、放射線照射による機能特性の向上や新しい機能を発現させることが期待できます。このような観点から、放射線照射による機能材料の特性変化に関する基礎的な研究を進めています。さらに、原子炉で減速したエネルギーの低い中性子を利用した散乱実験により結晶構造や磁気構造などを調べ、高温超電導体などの酸化物や磁性体などの物理的性質が発現する機構を明らかにするための基礎的な研究を行っています。


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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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