9.3 中性子照射が材料の腐食に及ぼす影響
  

 

図9-5 原子炉内の放射線のため、高温高圧水は放射線分解、ラジカル生成等により厳しい腐食環境となります。一方、材料中では照射誘起偏析による局所的な耐食性の劣化や各種照射損傷が発生します。それらの結果として、長期間使用された材料に応力腐食割れに対する感受性が現れることがあります。

 


図9-6 SCC試験後の試料破断面におけるIASCCの発生した面積率と照射及び試験温度の関係を示します。図中の写真は、結晶粒界に生じたIASCC破面(上)(11KB)及びSCCを生じない延性破面(下)(11KB)を示しています。
 


 応力腐食割れ(SSC)は鋼構造物の主要な損傷原因の一つです。軽水炉配管系のSSC問題は多くの研究の結果ほぼ解決されましたが、近年原子炉内で使用されるステンレス鋼に生じる照射誘起応力腐食割れ(IASCC)が、炉内構造物の耐久性評価の上で重要な研究テ−マとなっています。IASCCは図9-5のように材料並びにその周囲の化学環境に対する放射線の影響が重なり合うことにより発生します。原研では、IASCCの支配因子および発生機構の解明を目標とし、ステンレス鋼の原子炉照射と照射後の各種材料試験を行っています。IASCC研究では、原子炉内環境を模擬する高温高圧水中のSCC試験のほか、腐食試験や電子顕微鏡によるミクロ組織の観察が必要です。これらを照射材で試験するための装置をホットラボに設置し、これまでにIASCCの発生率と照射・試験温度との関係を明らかにし、核融合炉の工学設計等へも寄与しました。図9-6は、核融合炉近似条件(中性子スペクトル調整照射)および高速炉条件で照射した316型ステンレス鋼のIASCC感受性が示されました。


参考文献

T.Tsukada et al., Slow Strain Rate Tensile Tests in High Temperature Water of Spectrally Tailored Irradiated Type 316 Materials for Fusion Reactor Applications, CORROSION/92 (NACE,1992), Paper No.104.

T.Tsukada et al., Evaluation of Irradiation Assisted Stress Corrosion Cracking (IASCC) of Type 316 Stainless Steel Irradiated in FBR, J.Nucl. Mater., 207(1993)159.

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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