10.1 大型放射光施設に関する研究開発
  

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図10-1  兵庫県西播磨に建設中のSPring-8完成予想図

 


図10-2 SPring -8の放射光の性質

 


図10-3 テスト中のリニアック入射部

 


図10-4  シンクロトロンの508MHz 高周波加速空洞

 


1. 大型放射光施設 SPring-8

 光はこれまで物質科学だけでなく様々な分野の研究に利用され、数えきれない進歩をもたらしてきました。この光を利用する科学の最先端にある巨大な施設が、今、兵庫県西播磨に建設されつつあります。SPring-8(Super Photon ring 8 GeV)がこれです(図10-1)。世界最大規模のもので、原研と理化学研究所が共同で建設に当たっています。
 高エネルギー加速器において、電子が磁場中で軌道を曲げられると電磁波(光)を放射しエネルギーを失います。放射光は当初円形加速器にとって、厄介物と考えられていましたが、優れた特性をもつきわめて有望な光源となり得ることに気づき、これを用いた研究が急速に進みました。
 日本においても東大原子核研究所(0.4GeV)、高エネルギー物理学研究所(2.5GeV)、分子科学研究所(0.75GeV)などで、世界でも最先端の研究が活発に行われています。

2.放射光の特徴と利点

 放射光の特徴は次のとおりです(図10-2)。

(1)狭い前方方向に非常に強い強度で放射される。

(2)電子のエネルギーと曲率半径で決まる、あるエネルギー以下の連続スペクトルをもつ。

(3)曲げられる平面内に偏光している。

(4)電子軌道を規則的に変えて、光の位相を揃えることができる。

 光が極めて強く、波長が連続であるので、波長を選べる分光器を使って、任意の波長の光を単色にして取り出すことができます。このことにより桁違いに強く、偏光した光源が利用できるようになりました。

3.入射器の建設状況

 放射光用加速器は必要なエネルギーまで電子を加速する入射部と、電子を貯めて光を出す蓄積リングから構成されます。原研が担当するのは入射部であり、線形加速器(リニアックともいう)とシンクロトロンからなっています。
 リニアックでは、大電力の電波(マイクロ波)と電子を加速管と呼ばれる円形導管の中を一緒に走らせて、加速します。全長140mで、約1GeV まで加速することができます。放射光を利用するには、実は電子ビームよりも陽電子ビームの方が安定で適していますが、陽電子は電荷が正の電子で天然には存在せず、人工的に作らなければなりません。建設中のリニアックは陽電子ビームを発生させ加速できます。図10-3はテスト中のリニアック入射部です。
 シンクロトロンは、508.6MHzの高周波で周長396mの円形軌道を周回する電子を繰り返し加速し(図10-4)約1GeV で入射されたビームを8GeVまで加速できます。

 大型放射光施設は、1997年度中の供用開始を目指しています。


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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果1995
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